saiyuki novel

□素直に受け取れない(35)
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悟浄はテーブルに頬杖を突きながら、目の前で料理を平らげている三蔵をじっと見つめていた。視線に気付いた三蔵が訝し気な眼を向けると、二人の視線が交わる。

「…何だ」
「別にい?ただ、それの感想が知りたいだけ」

へらりと笑いながら告げると、三蔵はふんと鼻を鳴らした。
なぜ料理の感想が聞いたかというと、それを作り上げたのは悟浄だからだ。

八戒が家に転がりこんで来てから、悟浄は珈琲を飲む時以外は基本的にキッチンに立たない。立つ必要がないし、八戒が作る料理の方が美味いからだ。だからと言って悟浄が何も作れない訳ではない。基本的に女遊びはするが、家にまでお持ち帰りする事はないため、生きていくために必要最低限の料理を作る事はできる。ただ、見栄えが余り宜しくないだけで、本人曰く『美味けりゃ何でもいい』らしい。

「…悪くねえな」

ぼそりと呟いた三蔵の言葉に、悟浄は目を見開いた。

三蔵は、坊主のクセにマヨネーズが好きだ。
それに伸びたラーメンやしけった煎餅も好んで食べる。
三蔵法師に「悪くない」と言われれば、寺の坊主たちは歓喜に満ち溢れた表情を浮かべるのであろうが、完全に故障した味覚を持っている(と思っている)生臭坊主にそんな事を言われても…と、悟浄は料理の感想を聞いてしまった事を酷く後悔した。

(…もしかして、俺が食べたらマズいとか?いやでも、八戒の飯も食うよな、こいつ。じゃあ、本当は美味いのか…?)

悟浄が料理の感想を聞いたのは、ただの気まぐれだ。
美味しいって言われたら嬉しいなあなんて可愛らしい考えは一切持ち合わせていない。どうせ「マヨネーズはねえのか」と聞かれるだろうと予想していたが、全く違う答えが返ってきたため、動揺してしまったが、

(ま、悪くねえっつってんだから、いいか)

考えても分からない事をいつまでもネチネチ考え込むのが性に合わない悟浄は、考えるのを放棄して恐らく三蔵の最大限の褒め言葉を素直に受け取った。

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