saiyuki novel

□理不尽な罵倒(CPなし)
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「うわ、クセェ〜」

刺客もなく平穏な時間が流れる宿の室内で、悟空は口を服の裾で覆い、自身の鼻を摘み出した。

「げッ、ヤベえなコレ」

一歩遅れて悟浄も悪態を吐きながら眉間に皺を寄せながら悟空と同じ動作を行う。三蔵も、無言で裾を鼻と口に寄せた。八戒はすぐ様立ち上がり、窓に向かってスタスタと機敏に歩き出し、窓を全開に開けた。

「ゴホッ、これは…」
「おならだ!」

咳込む八戒の声を遮るように立ち上がり、もごもごと服の裾越しに声を荒げる。

「ぜってーこれは悟浄だ。屁こき河童!」
「ンな、何で俺なんだよクソ猿!」

悟空の「屁こき河童」や「おなら河童」などと言う軽口に対し、あらぬ疑いを掛けられた悟浄は侵害そうに抗議する。

「人の所為にすンなよ、本当はお前じゃねぇのか屁こき猿」
「俺、別におならくらい隠さねーもん。絶対悟浄じゃん。だって、今日も腹壊してトイレ籠ってたし」

悟浄は確かにしょっちゅう腹を壊してはいるが、それは三蔵との行為による事後処理が何時も遅れてしまう所為である。生臭坊主よろしく三蔵との夜の営みで、百戦錬磨を謳う悟浄は意識をトバしてそのまま夢の中に強制連行される事は頻繁にある。その為、明け方腹痛を訴え痛む腰を庇いながら悟浄はトイレに籠ってしまうのだ。

しかし。

「俺じゃねぇ!」

悟空の軽口に返しつつ、悟浄は思考した。確かに、悟空は放屁に対する遠慮や恥じらいというものがない。断じて自分ではない、そして悟空でもない、ならば。

「おい。屁はトイレで済ませろ、屁河童」
「そうだぞ、おなら河童!」

〜〜〜〜っ!
絶対このクソ坊主だろ!

悟浄は喉まで出かかった言葉を呑み込み、暫く悟空の理不尽な罵倒に耐え続けた。背後で申し訳なさそうな視線を寄せる八戒に気付かずに。

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