saiyuki novel
□初恋は実らない(95)
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初めて会った時の事は、あまり覚えていない。
三蔵の切羽詰まった声に呼ばれ、青緑色の『悪いヤツ』と対峙していたからだ。消え入りそうな声で謝罪を告げ、去り往く男から目を離した時、視界に綺麗な紅を見つけた。
燃えているようだと、思った。
その紅い髪も、瞳も。
口は悪いが、優しい男だと。
「…ん、あ…ッく」
壁一枚挟んだ部屋で、艶めかしい声が聞こえる。ギシリと軋むベッドの音は、やけに耳に響く。隣は、悟浄の部屋だ。
三蔵と悟浄が、所謂そういう仲になったのは、気付いていた。二人を取り巻く空気が何時の間にか穏やかなものに変わっていて、当初は、置いて行かれたような、違和感を感じたものだ。
「さ、ぞ…んぅ…ッ」
悟空は、ぎゅっと手元のシーツを握り締めた。
触れてみたら、冷たかった髪。
でも、子ども扱いするようにガシガシと頭を撫でる掌は熱い。
…そうだ。
熱かったんだ。
きっと三蔵は、悟浄の熱さに魘されているんだろう。
―――そして、自分も。
「…う、ぐす…」
目からぽろぽろと零れ落ちる液体を、ちろりと舌で舐めとる。
「しょっぺえ…」
悟空はごしごしと目元をシーツで拭うと、シーツを頭まで被ってキツく目を閉じた。隣から聞こえる声を、掻き消すように。
…悟浄が、好きだ。
―――気付いた時には、遅かった。