saiyuki novel

□曼珠沙華
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妖怪の襲撃もなく、予定通り次の町に着いた。
宿では二人部屋が二つとれたようで、今回の部屋割りは悟空と八戒、三蔵と悟浄である。

収穫の時期だからか、農作業が盛んなこの町は賑わっていた。異変の影響を受けている様子もなく、人々は明るい表情を浮かべて今年も無事に収穫ができる事を祝っている。所謂、収穫祭というやつだ。

決して大きくない町であるが故に、酒場や賭博場はない。悟浄はフゥと紫煙を吹き出し、窓の外を眺めた。そこには、昼間何度も見かけた大きく反り返った花弁が特徴で、紅い…彼岸花が咲いていた。


だから、悟浄みたいだなって、思った。

…悟浄みたいな、綺麗で力強い花ですね。


ふと、悟空と八戒の言葉を思い出す。久しぶりに紅い花に自分を喩えられたが、幼い頃喩えられた感情とは違う。あの頃は、自分と同じ色を纏う花にさえ憎しみの感情を露わにする美しい女性が泣き叫んでいた。自分を見ては狂い泣く美しい女性と、自分と同じ色を纏っているだけで無残に散り逝く花に何度も謝罪した。


「何笑ってんだ、気色悪ぃ」


昔の事を思い出し、フと自嘲の笑みを零すと、同室の最高僧基、三蔵が紫煙とともに悪態を吐き出した。自分の煙草とは違う銘柄の香りが混ざり合うこの空間が、いつの間にか心地が良いものに変わっている。


「三蔵は、彼岸花と俺って似てると思う?」


煙草を咥えてベッドの上に座っている三蔵の側へ近づき、隣に腰を下ろす。窓の外、地面に根付く二本の彼岸花を指で差した。


「悟空と八戒が似てるって言うからよ」


続けると、三蔵の眉間に皺が増えた。

あ、やべ。

途端不機嫌な表情を浮かべた三蔵に言い訳を考えようとするが、肩を力強く押されて世界が暗転した。気が付いた時には、三蔵に組み敷かれている状態だ。見上げると、鋭い光が灯った紫暗の瞳に射抜かれる。


「似てねえよ」
「さんぞ…んッ」


顎を固定され、口内に三蔵の熱い舌が侵入する。静かな空間で、ぴちゃぴちゃと淫猥な音だけが響く。


「ん、ふ…んんッ」


酸素を奪われ息苦しくなり、三蔵の胸元を叩くが、唇を離してくれる事ない。それどころか、抵抗された事に苛立ちを感じたのだろうか、口付けはより一層深くなった。

酸素を与えられず、クラクラする。意識が薄れてきたころ、唇が離れた。酸素を補うように荒くなってしまった呼吸を整えながら、覆い被さる三蔵を睨む。すると、三蔵は口角を上げ、どこか楽しそうな表情を浮かべた。


「…曼珠沙華は天上の花と言われている」


そう告げると、三蔵は左手で悟浄の唇を人撫でし、ゆっくり耳元に顔を近付けていく。三蔵が生み出す一つ一つの動作に、身体を動かす事ができない。


「天界にまで逃げるつもりか?…逃げんじゃねぇよ」
「…!」


みるみる顔が熱くなっていく。きっと赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、三蔵の首に手を回した。じわり、じわりと高ぶっていく熱に浸食されていく。



――ああ、逃げらんねえ。

心の中で一人ごち、快楽に身を委ねた。


fin.
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