saiyuki novel
□Chateau HAUT BRION(35)
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どいつもこいつも。
知らねえのか、禁忌が災いを呼ぶと言われていることを。
両親も、義母も、兄も、悟浄が「大切にしたい」と願う者には不幸が訪れた。愛されたいと欲を出すことを赦されない存在である悟浄にとって「愛」などという形の無い物は非情であり、必要でない物だ。しかし、必要でない物として切り捨てられるようになったのは、悟浄が精神的にも肉体的にも自立できるようになってからである。
「…っごめ…ごめんなさい、ごめんなさいっ」
両手で頭を抱えるように蹲る悟浄を見るのは何度目だろうか。時間が経過する事に術は進行しており、今では物音一つで発動するようになってしまった悟浄を、八戒は優しく宥める。
「大丈夫ですから、悟浄」
「…っ、」
―――…愛されたい。
「純粋無垢な子供だからこそ、欲に忠実だ」
紅に包まれた空間で、ぽつりと邑牙は呟いた。
邑牙が悟浄に出会った頃、悟浄は既に生きていく為の方法を身に付けていたからこそ姿を消した。だからこそ、全てを拒絶し、不必要な感情は全て蓋をしてしまう事が出来ない状態にしてしまう事が彼の真の目的であった。
「求めていた頃の彼ならばきっと、僕を受け入れてくれるだろう」
つまり、記憶の後退である。
「悟浄、落ち着きましたか?」
ゆっくりと顔を上げた悟浄の瞳は困惑していた。
まるで、
「…あんた、だれ」
まるで、知らない人を見るかのような、真紅の瞳で。