kinsho novel

□彼女のためならば(土ステ)
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朝。目を覚ますと窓から差し込む眩しい日差しに目を顰める。ロンドンの朝はこんなにも明るかったかと寝惚けながらも考えてすぐに思考を中断した。
ここは、日本だ。

「…っう」

起き上がろうとしたら腰がズキリと痛んだ。
ああ、そういえば、昨日は。

「ステイル、目覚めはどうだにゃー?」

朝だというのに元気な声とパタパタと慌ただしい足音とともに姿を現したのは同僚の土御門だ。昨日あれだけ嫌がる僕を組み敷いて好き放題弄ったというのにも関わらず目覚めの感想を聞くだなんて、趣味が悪すぎる。

「最悪だよ」

本当に、最悪だ。
昨日は土御門と一緒に学園都市での任務があった。だが思ったより早く終わり、ホテルに帰ろうとしたら「今日は妹が居ないから一人は暇だし寂しい」と嘯く土御門が勝手にホテルまでついてきたと思ったら、この有様だ。

大嫌いな奴の言葉を借りるとするならば、
本当に、不幸だと思う。

「まあまあそう言わずに、まだ、痛むだろ?」
「煩いなあ、誰の所為だと思ってるんだ」
「調子に乗ってしまったぜよ、ステイルが可愛いもんだからつい」
「っう、煩い!というか、来るな、離れろ!」

土御門は気にするなと言いながら抵抗する僕の腕を掴み布団に潜りこんできた。二人分の体重を支えたベッドがギシリと悲鳴を上げる。

「触るな、変態野郎」
「その変態野郎に好き放題されて悦んでたのはどこの神父様だにゃー?」
「…っ、し、死ね」

離れようにも勝手に頭の下に腕を置かれてぎゅうと抱きしめられたうえに、身体の節々が痛くて思うように動かせない。

「…っ…強姦魔」
「それは傷付くにゃー…」
「なら、今すぐ離れる事だね」
「もう、煩い」
「なにを…んっ」

土御門に向けて吐き捨てようとした暴言は、彼の唇によって塞がれてしまった。その感触に、昨晩の事情を思い出してしまい、顔が熱い。

「ん、んっ」

全身が、熱い。
逃げる舌を器用に絡めとり吸い上げられて思わず声が漏れる。酸素不足と慣れない感覚に流されそうになる。流されてしまえば楽なのに、と思うとタイミング悪く唇を離された。しっかり閉じていた眼を開けると、至近距離で土御門が意地悪そうな笑みを浮かべている。

「少しは、気が紛れたんじゃないのか?」
「な、何が…」
「昨日、躊躇いがあったぜよ」

だから一体何がと問いかける前に、土御門は続けた。

「敵を殺す事に」
「……!」

学園都市の任務というのは、とある魔術結社の抹殺。強力な魔術を取得するためには並大抵の努力では到底無理だ。だからこそ彼等にも強い決意というものがあり、それは敵に敗れたからといってすぐに変えられる事は出来ない。

だが、果たして本当に、人の考えを変えられる事が出来ないのか?

頭に浮かんだ人物は、上条当麻。
彼と戦った人間は悉く考え方を変え、更生する者が多い。神崎も、天草式も、アニューゼも。そして、認めたくはないが、僕もその一人だ。

殺す、
必要はないのではないだろうか。

その疑問が僕の中で生まれ、昨日の戦いに躊躇いが生じたのだろう。

「気付いてないとでも思ったか?」
「………」
「そんなんじゃ、禁書目録も守れないぜい」

土御門は聡い男だ。
それに気付いたからこそ、裏で動くだけの予定だった土御門が戦闘に加勢し、敵を殺めた。

だからって、

「だからって…、」
「ん?」
「…っ、こんな、慰め方はないだろう…」

下手とか上手とかの問題じゃない。
昨日の戦闘は確かに僕の甘さが原因で少し危ない場面もあったが、何故、同僚であり同性である彼を受け入れなければいけないのかは理解できない。

「僕たちは、その、男同士だぞ」
「ステイルが女だったらオッケーだったのかにゃ?」
「そういう意味じゃないっ」

僕が声を荒げると、土御門は楽しそうに笑った。
何が楽しいんだ、一体。何が。

「まあ、細かい事は気にするな」
「するだろうっ」
「けど、これで昨日の件はチャラだぜい」
「…っ」

そう言われてしまえば悔しいが何も反論できない。
黙っていると土御門は僕の甘さを嘲笑うような表情を浮かべながら起き上がり、耳元に顏を近付けた。

「…次は、殺せ」

…言われなくとも、そうするつもりだ。

彼女のためならば、
僕は、

誰でも殺す。
生きたまま燃やす。
死んでも燃やし続ける。


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