kinsho novel

□看病(上ステ)
3ページ/4ページ

イギリス清教必要悪の教会の神父、基魔術師のステイル=マグヌスは、目の前に突き付けられた金属のスプーンを睨みつけていた。
「…一体、何の真似だい?」
ひくひくと頬を引き攣らせて問いかけるステイルにへらへらと曖昧な笑みを返す男は、学園都市Level0の一般人、上条当麻だ。左手には湯気が漂うお粥が入ったお椀、右手にはお椀の中に入ったお粥を少しだけ掬ったスプーンが掴まれている。
「だから、あーんってしろよ」
「い、意味が分からない」
不可解な当麻の行動が本当に理解できないステイルは、狼狽えながらも拒絶を続けている。因みにこのやり取りを初めて、軽く5分は経過しているところだ。
「しつけぇなあ、そろそろあーんってしろよ」
「嫌だ、自分で食べられると何度言えば…んぐッ」
ステイルの言葉が途中で途切れた理由は、痺れを切らした当麻が、ステイルの口にスプーンを宛がったからだ。条件反射で咄嗟に口を開けてしまったステイルは、当麻の思惑通りお粥を食べさせられてしまった。
「…燃やしたい」
もぐもぐと口の中を動かしながら小声で呟いたステイルの一言に慌てて謝罪をする当麻だが、右手に握られたスプーンにはまたもやお粥が乗せられている状態だ。
「…本気で謝っているようには見えないけど」
ステイルはお粥が乗せられたスプーンを訝しそうに見つめた。

(しょーがねぇなあ…)

「右腕が使えない間は、ステイルさんの身の回りのお世話をさせて頂きますよ」
スプーンから低姿勢で答える当麻に視線を移すと、呆れたような表情を浮かべたステイルがはあ、と溜息を一つ吐き出した。
「…分かったよ、鬱陶しい」
悪態を吐きながらも、口を大きく開いたステイルに可愛らしさを感じた当麻は、先程の理不尽な罵倒を軽く聞き流して、ステイルの口にスプーンを運んだ。


あれだけ食べる事を躊躇っていた割に、お椀の中のお粥はすぐ空っぽになった。魔術師と言っても人間。何だかんだ言っても空腹には耐えられないようだ。
「ご馳走様」
律儀に食後の挨拶をしたステイルは、じっと当麻を見つめる。
「な、何だよ…」
次は当麻が狼狽える番だ。
ステイルに睨まれる事はあっても、じっと見つめられる事はない。彼の顏は整っており、異国人のため肌も透き通るように白くて綺麗だ。
「煙草が吸いたいんだけど」
唇はほんのり薄くピンクがかっていて、触れたら柔らかそうだなあとぼんやり考えている当麻であったが、ステイルの喫煙発言にハッと我を取り戻した。
「だめだ!禁煙だぞ、ここ」
「じゃあ、噛み煙草を持って…」
「それもだめだ!」
当麻はステイルの発言を制するように声を荒げる。
「ニコチンとタールがない世界は地獄だ。僕のような敬虔な子羊は地獄に落ちるような事があってはならないんだと言っただろう?それに、口が寂しいのは耐えられない」
つらつらと早口で言葉を捲し立てたステイルは、こんなにも僕は可哀想なんだぞと言わんばかりに最後には首を傾げてみせた。
「…"口が寂しい"のは、助けてやらないとなぁ」
「そうだろう、早くしたまえ」
すっと立ち上がった当麻を見て、ようやくニコチンとタールの補充が出来ると期待したステイルはベッドにごろりと寝転がった。
小さな悪戯心が湧いた当麻は、ベッドに寝転がったばかりのステイルの顎を固定する。
「ッ、何をするっン」
抗議するステイルの口を、当麻は己のそれで塞いだ。大きな声を出していたステイルの口は簡単に当麻の舌の侵入を許した。
「んっ…ん、ふ…」
零れる甘い吐息に、全身がビリビリと痺れる感覚を感じた当麻は、逃げるステイルの舌を自身の舌で絡め取り、吸い上げる。
「んんっ、ふ」
ビクリと身体を仰け反らせて反応を示すステイルに気を良くして、舌を甘噛みしたり、歯列をなぞったりして反応を愉しんだ。
(可愛い…)
暫くステイルの口内を思う存分堪能した当麻は、ゆっくりと唇を離す。受け切れなかった唾液は、ステイルの口の端から零れていった。
頬を真っ赤にさせたステイルは、乱れた呼吸を整えるように肩で息をしながらも、潤んだ瞳で当麻を睨みつける。
「こうしたら、口は寂しくなくなるだろ?」
そんな顏で睨まれても、煽られているようだと思った当麻は悪戯な笑みを浮かべた。
「…も、もう寝る。起こしたら殺してやる」
ステイルは真っ赤な頬を隠すようにふいと顔を背けて、布団に顏を埋めた。手元にルーンカードがないステイルは丸腰同然だ。当麻は傷が癒えた時の事は敢えて考えず、ステイルが食べたお粥とスプーンを洗うために立ち上がった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ