kinsho novel

□看病(上ステ)
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時刻は19:00。
昼同様、温めたお粥を乗せたスプーンをステイルの口元に寄せると、彼は眉を寄せながら口に含んでいった。嫌そうではあるが、昼間よりは直に応じるステイルに満足感を感じた当麻はお椀とスプーンを持って立ち上がる。
すると、
「上条当麻」
ステイルが当麻を呼び止めた。
当麻は何だよと軽く返事を返しつつ、食器を洗うために蛇口を捻る。
「僕はシャワーを浴びたい」
「…シャワー?」
洗い物を片しながらステイルをちらりと見遣る。
頭に巻かれている包帯。そして上半身は右腕を中心に包帯が巻かれていて、とてもじゃないがシャワーを浴びる事は難しそうだ。
「そう、シャワー。借りるよ」
当麻の心境など完全無視でステイルはぎこちなく立ち上がろうとするが、傷が痛むのか、眉を顰めて小さく呻き声を上げた。それでも無理に動こうとするステイルに呆れた当麻は、蛇口から溢れ出る水を止めてゆっくりステイルの元へ歩き出した。
「あーあ、シャワーも厳しいんじゃね?」
「そんな事はない、左腕だけで事足りるはずだ」
負けず嫌いなステイルは食い下がらない。
「濡れタオルで拭いたらいいじゃん」
名案!とでも言うように当麻が出した案に対して、ステイルは案外あっさりと応じた。
「…不服だが、それで納得しよう」
ベッドにのろのろと戻るステイルに安心した当麻は、再度食器を洗うために台所へ向かうのであった。




少し熱めのお湯で浸したタオルを力強く絞り、水滴が垂れないか厳重にチェックを行った『濡れタオル』を手に、当麻はステイルの前に立ちはだかる。そして、
「ズボン脱げよ、ステイル」
と、何か物言いたげなステイルを無視して笑顔で言い放った。
「…そこに置いておいてくれないか。君が入浴している間に済ませるよ」
まるで変態を見るような目を向けるステイルに臆する事なく当麻はステイルが被っている布団を捲り上げる。
「何をするんだ!変態ド素人が!」
「変態も何も、男同士だろ?どうせ右腕動かねえんだから、俺が拭いてやるって言ってんだよ」
呆れたように答える当麻を恨めしそうに見つめながらも、ステイルは尚も反抗する。
「断る。君に身体を拭かれるなんて、屈辱的にも程がある」
「右腕が使えない間は、ステイルさんの身の回りのお世話をさせて頂きますって言っただろ?有言実行してるだけだぜ。まさか、俺がお前に性的な感情を抱いているとか思ってるんじゃ…」
「違う!分かった!お願いしよう!」
突発的に出た言葉にステイルははっと我に返るが時すでに遅し。
悪戯な笑みを浮かべた当麻に何やら嫌な予感を感じたが、自身の発言を今更撤回する事が出来ないステイルは視線を逸らし、俯いた。
まんまと当麻の口車に乗せられた、というわけである。
「じゃあ、拭かせて頂きまーす」
当麻は楽しそうに宣言すると、ステイルが座っているベッドの上に膝をついた。右腕から右胸元までは包帯がぐるぐると巻かれているため、左腕から丁寧に拭いていく。ちらりとステイルの様子を伺うが、下を向いているため肩まで伸びた長い髪が邪魔をしていて表情が伺えない。当麻は視線をステイルの肌に戻す。白く透き通った綺麗な肌は同じ同性とは思えないほど透明感があり、二歳年下なだけあってか、普段の見た目とは裏腹にすべすべだ。さすが14歳と感心しながらも、左腕、首元、胸板と順次に拭いていく。その時、
「ッあ」
ステイルが、嬌声とも取れるような小さな悲鳴を漏らした。
驚いた当麻はステイルの顏に視線を向けるとバチリと視線が合う。
「どうしました、ステイルさん」
問いかけられたステイルは、頬を真っ赤に染めながら狼狽えるように「何でもない!」と大きな声で叫び、視線を逸らす。
(…まさか、感じた?)
当麻は頭に思い浮かんだ疑問を解消するため、再度胸板を拭く動作を見せながらも、親指で小さなピンク色の突起を刺激してみた。
「っん」
可愛らしくも素直に反応を返すステイルに、またしても悪戯心が芽生えてしまった当麻は何度も何度も同じように、胸板を拭くフリをして親指で突起を刺激する。
「…ふ…んっ、か、かみじょ…と当麻」
「んー?」
途切れ途切れに名前を呼ぶステイルに軽く返事を返しつつも、突起をタオルと親指の間で摘んだり、転がしたりと悪戯の手は止まない。
「も、そこ…いいッから…あっ」
悲願するように、ステイルは当麻の腕を左手で掴んだが、不幸に愛された上条当麻は残念ながら、人一倍ポジティブ思考の持ち主だ。
「ここが『良い』んだな」
「ちが…あッ」
そういう意味じゃない!と叫ぼうとするが、嬌声に変わってしまう自身を燃やしたい衝動に駆られながらもステイルは自身の唇を噛んで瞳をきつく閉じた。当麻はステイルが自身で視界を塞いだ事を確認すると、吸い寄せられるように色素の薄い突起に口を近付ける。
「…!ん、は…ぁ」
舌先でちろちろと舐め上げたり、吸い付く度にステイルの身体がびくびくと反応を示す。怪我人にこんな事をするのは多少罪悪感が感じられるが、普段ステイルから戦場で囮にされたり、敵とともに攻撃の的になったりと雑な扱いを受けている当麻にとって日頃の仕返しをするには格好のチャンスなのだ。見逃せる訳がない。
「う、ん…うぅ」
ぐす、と鼻を啜る音が聞こえた当麻は、ふとステイルを見上げた。
目尻に浮かんでいた涙がぽろぽろと溢れ出し、頬を伝っている。
「うえ!?ご、ごめん!ステイルっ」
泣かせてしまった、と思い至った当麻は咄嗟に謝罪する。
「…な、何だ、これは」
ステイルさんが可愛らしい声を出すもので、うっかり調子に乗ってやってしまいましたとは言えず、当麻は黙ってしまう。
「…これ、は、魔術か?それとも、化学?」
「…………………はい?」
「何だこの変な感覚は。…上条当麻、一体これは何の術だい?」
どうやら、ステイルは先程当麻が起こした悪戯によって快楽を得ていた感覚を、魔術もしくは化学で起こされた得体の知れない術だと勘違いしているようだった。
「いや、でも君の右手にある幻想殺しが異能の力を否定する、か。それでは一体これは…」
ステイルは当麻の目の前で、先程自身に起こった出来事を冷静に分析している。
何度も言うが、ステイル=マグヌスはイギリス清教第零聖堂区「必要悪の教会(ネセサリウス)」所属の魔術師だ。そして、煙草にピアス、入墨と染髪の所為で“エセ”神父と呼ばれる事が多いが、れっきとした“神父”である。魔術に携わって生きてきた彼はもしかしたら、そういう知識に疎いのではないだろうかと、当麻は少しだけ自分の行いに罪悪感を感じた。
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