saiyuki novel

□Chateau HAUT BRION(35)
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「やあ、悟浄」


男は昨晩何事もなかったかのような微笑みを貼り付けていた。背後には複数の男達が、興味深々な趣きで悟浄を見つめている。まるで見世物のような気分にさせられる男達の視線達に、舌打ちを漏らした。その様子に満足したかのように男はクスリと笑みを零す。


「大人しくしてくれたら、悪いようにはしない」
「どっちゃにしろワルイコトすんだろ」
「ははっ、こんな状況で余裕なところも好きだよ」


この男と話していると逃げ出したくなる衝動をグッと堪えた。心の奥底で蓋をしてきた『欲しいモノ』を惜しげもなく与えてくれるかもしれない、という淡い期待が胸を焦がす。

錯覚に陥ってしまいそうな自分を引き戻すように、フルフルと首を左右に振った。

牛魔王の刺客ならば、普段愛用している錫月杖を使用すれば一発だ。だが、目の前にいる男達はただの人間。殺すわけにはいかない。否、殺したくはない。

ズキズキと痛む腰を庇いながら立ち上がろうとしたが、身体から力が抜けていくような感覚が襲う。指先は問題なく動く、つい先ほどは寝返りも打てた。しかし、何度力を入れようとしても起き上がる事ができない。


「…なんだよコレ」


昨日の激しい事情でのソレとは違う、立ち上がる事を脳が拒絶しているような感覚に、誰に問うわけでもなくポツリと零した。


「タイムロスもなく効いてきたみたいだね。悟浄を手に入れるためだけに調合した、世界に一つしかない薬だ。昨日のような媚薬効果は得られないけどね…残念だった?」
「ああ、キモチヨくなれないなんて、スゲー残念」


軽口を叩き、態と男を挑発するような視線をぶつけるが、内心酷く動揺していた。このままでは大勢の男達の思うようにされてしまう。いくら過去に男娼まがいな事をしてきたとはいえ、一対一の話である。この人数を相手にしたことはない。否、相手にしなくてはいけない状況だった時はどんな状況であれなんとか逃げてきた。しかし、今の現状では抵抗どころか逃げることすらできない。

そんな姿を嘲笑うかのように、男はベットに腰を下ろした。紫暗の瞳が悟浄を捉える。


「おかあさんが教えてくれなかった愛を、僕が教えたいんだよ…悟浄」


ゆっくりと頬についた二本の傷を撫でながら、耳元で囁くと、ソレに反応するように自然と身を竦めた。そのまま顔を首筋に近付けると、触れるか触れないかの微妙なタッチで幾度となく舌先でなぞった。その動きにあわせるように、悟浄の身体が小さく揺れる。


「っは…あ…愛なんて、いらねえ…」
「嘘。ずっと、欲しくて堪らないって顔してる」


舌を這わせるごとに段々と反応が敏感になる。歯を食いしばりながら我慢していた吐息が少しずつ熱を帯びていく事を確認すると、男はゆっくり惜しむように身体を離した。背後で大人しくしていた複数の男の方へ振り返る。


「さ、好きなようにしていいよ」


その言葉が合図だと言わんばかりに、悟浄の周りに男達が群がる。両腕をロープで拘束し、衣類を剥ぎ取る。軽い抵抗しかできない事は自覚しているがそれでも身体を好き勝手にされる事に黙っている訳にはいかず、必死に身体に力を入れようとするが、指先が動くだけであとは思うように動かない。歯痒さと情けなさ、それにこれから来る望んでもいない快感を抑え込むようにギリッと、歯を食いしばった。


「く…っん……」

拘束している間は手荒だった男達の愛撫は、まるで割れ物を扱うかのように緻密だった。触れるか触れないかの微妙なタッチで太腿を撫でたり、首筋を舌先でなぞられる。そのじれったい動きに耐えていると、男達は様子を伺いながらも愛撫を止める事はなかった。


「」
「…!」


逆に焦らすような刺激で悟浄を追い立てる。歯を立てられたり吸われたり、歯痒いような刺激が続いていく。決して下半身には触れられることなく、熱が一気に高まることも逃げることもできない。じれったいようなもどかしいような曖昧な快感に、感覚が狂わされる。


「…や…あっ」


拒絶の言葉すら熱い吐息に変わる。
ねじ伏せるように、ただじりじりと追い立てるように触れられて、熱くなっていく自分の身体にも嫌気が差す。勢いに乗じた行為の方がまだマシだ。じっとりと高めて追い詰めていくためだけの刺激で、理性が崩れ落ちそうになる。


「んっ…ふ」
「君を拒絶するだけの世界なんて、捨ててしまおう」




中途半端に高まる身体の一方で、胸の奥に蓋をした何かが溢れ出していくような違和感を感じた。
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