saiyuki novel
□帰りを待ちわびる(35)
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ここ最近野宿が続いていた三蔵一行は、久々の街で日頃の疲れを十分に癒すため、宿室に籠っていた。
流石に長い野宿生活に元気が取り柄の悟空でさえ疲れきった表情を浮かべ、夕食を済ませた後は八戒とともに足早と自室に籠って行った。
今日の同室は八戒と悟空、三蔵と悟浄だ。だが、二人部屋のもう片方のベッドはまだ一度も使用されていない。
「チッ…クソが」
久々の同室であるというのにも関わらず、夕食もそこそこに悟浄は「ちょっくら行ってくるわ」と夜の街に出て行ってしまったのだ。三蔵からしてみれば単独行動はもちろん、二人で過ごせる貴重な時間に恋人が傍に居ない事は面白くない以外のなんでもない。恐らく、悟浄は道中で見かけた賭場で旅の資金を稼いでいるのであろう。帰りが遅い事は目に見えている。
カチ。
カチ。
カチ。
時計の音がやけに耳に響く。沸々と沸き起こる苛立ちに、三蔵は本日何度目か分からない舌打ちを盛大に零した。懐を探りマルボロの箱から煙草を一本取り出し、乱暴にライターで火を灯す。馴染んだ味を吸って、吐き出して、吸って――…吐き出した時、外に人の気配を感じた。
全く敵意のない見知った気配を感じて、先ほどまで感じていた苛立ちがすうと消えていくのを三蔵は感じていた。我ながら現金なものだと自嘲を零す。備え付けられた壁時計を確認すると時刻は23時46分。
ドアが開く直前、緩む頬を引き締めた。
「遅ぇ」
冷たく放った言葉にドアを開けた人物――…悟浄は肩をぴくりと震わせ驚いた表情を浮かべていた。
「あ、もしかして、俺のコト待ってた?」
だが、悟浄の見開かれた真紅の瞳は直ぐに細められ、口角を上げてシニカルな笑みを三蔵へと向ける。
「待ってねぇよ」
「三ちゃんったら、つれない」
「うるせえ。来い」
悟浄は少し気恥ずかしそうに頭をぽりぽりと掻くと、目を細めて嬉しそうに微笑んだ。
「…しゃあねぇなあ」
ベッドの上で片足を上げながら座り込んでいる三蔵の肩口に顔を寄せると、すりすりと頬を摺り寄せる。まるで猫のようだと思いながら、サラサラと流れる真紅の髪を指で梳かすと、悟浄は擽ったそうに身を捩った。悟浄の一つひとつの仕草に魅かれるように、唇を指で撫でると、零れる吐息が三蔵を欲情させていく。
「ん…」
蕩けるような真紅の瞳で見上げる悟浄の唇に吸い寄せられるまま、己のソレを合わせた。何度も何度も角度を変えて味わっていくと、次第に悟浄の息が乱れていく。悟浄の身体をシーツに沈ませながら、少し開いた口に舌を滑り込ませ歯列をなぞり口内を貪っていく。
「んぅ…んっ」
合間に漏れる吐息も唾液も余すことなく味わいながら、悟浄の口内を思う存分堪能してから唇を離すと、名残惜しいかのように銀の糸を引いた。悟浄は頬を上気させ、肩で息を整えながら潤んだ瞳で三蔵を見上げる。
「…なあ、さんぞ」
「何だ」
悟浄はシーツに沈んでいた両腕を三蔵の首に回し、上半身を少し上げて顔を三蔵の耳元に寄せた。
「…誕生日オメデト」
―――…ああ、そういえば。
ふと部屋に掛けられたカレンダーに目をやると、日付は11月29日。普段よりも悟浄の帰りが早い理由は、そういうことだったのかと思うと、自然と頬が緩む。
「今日はさ、好きなコトしていいぜ?俺のコト」
耳に吐息を吹きかけるように囁く悟浄の声に、三蔵の欲情が煽られる。
「…後悔すんじゃねえぞ」
「ハッ、まさか」
喉がカラカラになるような渇きと飢えを感じていた三蔵は、欲望のままに悟浄を求めた。
現在の時刻は0時0分。