saiyuki novel

□悪足掻き(鷭浄)
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「…よぉ、奇遇だな」

瞬時、目の前に広がる紅。ズチュリ、臓器を引き出す耳を塞ぎたくなるような音が響き渡る。

「……ば、んり」

鷭里は、血に濡れた長い爪を紅い舌でぺろりと舐めとった。視線を下げると、そこにはつい先程まで悟浄を上から下まで品定めするように、意味有り気な視線を向けていた男が腸やら内臓やら、体内の臓器と大量の血をぶちまかして倒れている。

ついさっきまで、生きていた。

「お前さ、よくこンなだりぃ事できるな」

先程人を殺したとは思えない程気怠そうに、鷭里は言う。

「…関係ねえよ」

素っ気なく答えると、鷭里はククッと声を押し殺して笑った。そして、地面にしゃがみ込み、死体の身に着けていたスーツのポケットを弄りはじめる。

「お、結構あんじゃん」

ポケットから取り出した手には、数枚の金が無造作に握られていた。その中から二枚、皺が目立つ紙切れを悟浄の顔に突き出す。

「…いらね」
「仕事しなきゃ貰えねぇってか。律儀だよなぁ」

悟浄は視線を逸らし、横たわっている死体を見つめた。鷭里が言いたい事はつまり、一々身体を預けてまで金を摂る必要はないということだ。

いいから、いらねぇ、同じ言葉を繰り返す事に飽きを感じてきた鷭里は、悟浄の手を無理矢理こじ開け金を握らせる。そのまま、悟浄の手を自身の両手で包み込み、口角を上げた。

「俺が客になってやる。それなら文句ねぇだろ?」

悟浄からの返答はなかった。


答えはいらない。
それは「イエス」と言えない最後の悪足掻きだ。

「…ひぁ…あっ、クソッ…んぅ」

薄暗い裏路地、ズチュズチュと淫らな水音が一定のリズムで繰り返されていく。

「悟浄…ココ、ぐちょぐちょだぜ。ったく、開発されきってんじゃねぇか」
「云うなぁ…やっ…あ、あぁッ」

前と後ろを同時に弄られ、意識をトばしかけている悟浄は快楽を逃そうと必死に身体を攀じらせようとするが、鷭里は悟浄の動きを制するよう腰を掴み、最奥まで自身の塊を突き挿れた。

「あぁあっ…―――ッ!」

一度目の絶頂を迎えた悟浄の入り口は強い締め付け、中は淫らに鷭里を絡め取るように吸い付く。

「…すっげぇ締め付け」

鷭里はたまらないというように、その細腰を掴み乱暴にゆすり始めた。 締め付ける内壁と、悟浄の屈辱に歪む表情に鷭里の興奮はじわじわと頂点へと駆け上がる。

「は、ぁあっあっ」
「イくぜ、悟浄」

悟浄の体が揺さぶられるほど激しく突き上げ、恍惚の表情で最奥へ自身の欲望を放った。


目が覚めたらベットの中というのを期待したが、現実は非情である。

「い、てぇ…」

辺りは薄暗く、血生臭い。
痛む腰を抱えながら、壁に手をつきながらゆっくりと起き上った。目の前で臓器をぶちまかしながら倒れている男、湿ったような土の匂い、薄暗い路地裏…鷭里の姿はない。ブルゾンのポケットを漁ってみるも、出て来るのはハイライトとライターだけ。それを一本取り出し口に咥えると、火をつけた。

「…クソ野郎」

悪態は煙紫とともに、空気に溶け込んでいった。

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