saiyuki novel
□ただ、隣に(85)
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長い夢を見ているようだった。
終わりのない長い長い、そんな夢を。
何百何千という人間や妖怪をこの手で殺めて尚、愛する片割れを救う事は出来なかった。身体からドロドロと溢れる血液で赤く染まった身体は、まるで己の罪を証明するかのようで。痛みも感じられず意識が混濁とする中で、紅を纏うあなたを見つけた時は、罪に濡れたどうしようもない自分を地獄へ誘う死神のように思えた。
事の成り行きで同じ屋根の下、生活を共にする事となり自分の事に関しては無関心なお人好しな面が垣間見えた。同時に、何かに縋るような、それでいて手に入れる事に脅え、諦めているように伏せる真紅の瞳を持つあなたから目が離せなくなった。欲しいものがあるのならば、惜しむ事なく与えてあげたい。この世は残酷で、欲しいもの全てが手に入ることはないけれど、それでも、全てを諦める必要はないのだと。
「――…は…かい…」
妖怪だけに与えらえる紋章を背中に抱え、自我を必死に保とうとする紅い瞳は僕を捉えている。こんな状況でも縋る事を躊躇いその紅い、あかい瞳を逸らしかけたあなたの両頬に手を添える。
「…大丈夫ですから」
何がと、戸惑うあなたの震える唇に僕のソレを合わせる。肩をピクリを震わせるあなたを愛おしく感じながらも、感触を堪能していく。時たま漏れる熱い吐息、段々充満していく妖気、まるであなたに包まれているような感覚にクラクラと眩暈がするようだ。
誰かに頼る事を知らないくせに、他人を背負い続ける強いあなたの奥底にある弱い部分を、ずっと背負いたいと思っていた。そう、思っていたのだ。つい先程までは。
「な、に…を」
「一人にはさせませんから」
ふわりと何時ものように微笑み、耳元のカフスをひとつ、またひとつと、外していく。駄目だと叫び首を振るあなたの声に耳を傾けることなく両手を塞ぎ、再度、その唇を味わう。あなたと僕の妖気が混じり合うソレが、まるで夜の僕たちのようで。
だってね、悟浄。
あなたが暴走してしまった時は、僕がこの手で、それで、あなたを生涯背負って、あなたの分まで生きていこうと決めていたのに。…もう、一人残されるのは嫌だと思ってしまった。
大切な人があと二人いる事は忘れていない。それでも、あなたと比べると価値のないものに思えてしまう自分の薄情さに苦笑する。
生きる時も、
死ぬ時も、
…暴走する時であっても、隣に居たい。
意識が遠ざかる気がした。
fin
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85拍手LOG.