saiyuki novel

□裏切り者の追悼
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以前路地裏で真紅の髪と瞳を持つ禁忌の子を見つけた。大の大人三人相手に怯む事なく掴み掛っていく一見逞しく見える青年をただ純粋に、ビジネスのパートナーにしたい、と思った。大人達を伸した後賺さず声をかけると唸る低い声と鋭い視線がぶつけられる。人間を、妖怪を、そして自分までも信じられないような真紅の瞳の奥に、孤独に飢えた人肌恋しい欲を垣間見た気がした。

勝手にすればと如何でも良さそうな返事をした割にイイ仕事っぷりを発揮してくれた。命の危険を感じたら心より身体が先に反応するのだろうか、何度も救われた。救われる度に裏切った。それでもほとぼりが冷めた頃何もなかったように近づく俺を見捨てることはなかった。

擽ったいような感覚が心地良くて、何度も裏切る俺を何度も受け入れるソイツに何かしてあげたくなって、吸った事はあるみたいだけど銘柄が定まっていないようだったので自分の愛用する煙草の銘柄を奨めた。マズイものから美味いものまで汚い事をして、させて、手に入れた酒を一緒に嗜んだ。博打を教えた時は驚いた事を今も覚えている。何度勝負を挑んでもこの俺様がド素人に勝てなかった苦い思い出だが。他にも、他人を拒絶する反面、無自覚だが他人の温もりに飢えてセンチメンタルな気分になる夜の過ごし方を教えた。勿論ホモ野郎になってしまっては困るので、苦手だと嘆いていた女との夜の過ごし方もご丁寧に教えてやった。

何時の間にか、不機嫌そうな面しか向けなかった最初の頃が懐かしいくらいに無邪気な笑顔を魅せるようになった。女の扱いにも慣れて、一杯で酔い潰れていた酒も俺程ではないが飲めるようになったし、今まで話す事を患っていた過去の生き様もぽつりぽつりと零すようになった。

それでも、信用も期待もされていなかった。そんな寒いものされても困るし求める事もない。どれだけ距離が縮まろうがそこだけはお互い譲らない関係が心地良かった。だからこそ平気で何度も何度も姿を消す事ができた。それなのに一年ぶりに戻ってきたら、見知らぬ他人と生活を共にしている。自分のようなゴロツキと違って、育ちが良さそうな好青年とだ。気に入らない。何がと言われると理由は定かではないが、きっと何年も掛けて自分色に染め上げたモノが綺麗な絵具か何かで落書きされたような、そんな気分だった。

もう一度染め直したくてお人好しなソイツに、共に過ごしてきた懐かしい思い出と話して同居人の居ない間に酔わせて、俺の体温を思い出させるかのように抱いた。感度も反応も一年前と変わらなかったが、それでもざわついた感情を抑え切れずに態と「デカいビジネス」で失態を犯した。ソイツを呼んでくれと頼んだら数分後、呑気に現れ少しも考える様子なく身代わりになってくれた。変わっていないことに満足してまた何時ものように裏切った。

どれだけ裏切られても見捨てる事のないお人好しの命は同居人に救われるという確信があった。だからきっとまたドアを壊して、何事だと怒鳴りつけるソイツに久しぶりだなぁと笑って、呆けた表情が生きててよかったなんて思えるくらいの笑顔を向けてくれて………なァ、悟浄。


「───浄ォ……煙草…一本、くれよ」


fin



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鷭浄大好きすぎるぜ…

改行していないのでPCの方
見にくいですよねすみませんガクブル


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