saiyuki novel

□うまく生きるための模範解答を教えて
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ジリジリと照り付ける太陽の下、
今日もジープに揺られる四人組は西を目指す。

今日は晴天。


「う〜…あぢぃ…」

ガタガタと揺れる後部座席に唸り声を上げる悟空。
間を与えず入ってくる軽口が何時まで待っても返って
こない事に違和感を感じたのは悟空だけではなかった。


「…悟浄?」


心配そうな音色を響かせ、八戒はミラー越しに悟浄を見やる。
心此処にあらずといったような表情を浮かべていた悟浄は
自分の名を呼ばれると、何時ものシニカルな笑みを浮かべ
「ん?」と短めな返事を返した。


「…いいえ、何でも」


悟浄がこの手の笑みを浮かべる時は、何も言わない。
次の町までこのままいけば、30分程度といったところか。
八戒は諦めたように溜息を吐き、前を向いた。


(あ〜…バレてら)


悟浄はそんな八戒の気遣いを察知し、心の中で悪態を吐いた。

次に向かう町を、悟浄はよく知っている。
欲望に塗れた男たちの眼を、厭と言う程…。




――もっと楽でおもしれぇ稼ぎ方があるぜ?

こんな薄汚れた生き方をしていた自分を、
はたまた薄汚れた生き方をしてきた男にたった一度だけ救ってもらった町だ。
細い眉とウザイけどどこか嫌いになれない軽口を叩く昔の相方の姿を思い出した。


「あ!町だ!飯だー!」


後部座席で悟空が嬉しそうに叫ぶ。


「それより先に、宿探さねぇ?疲れて飯どころじゃねェよ」
「そうですねぇ…最近、野宿続きでしたから」

八戒が同意すると、悟空はぷぅと頬を膨らませて渋々納得した。
そんな脳みそ胃袋猿を横目で見ると、ぐぅぅぅと空腹に耐えかねた悟空の腹が鳴る。
いつの間にか張りつめていた頬が自然に緩むのを感じた。
自分の存在を住人が忘れていてくれる事を願い、町に足を踏み入れる決意を固めた。








決意を決めたと言っても念には念が必要だ。
悟浄は三人とある程度の距離を保ち、後方をゆっくり歩いた。
髪の毛を無造作に括り、なるべく前を見ないように。
時々悟空や八戒が後ろを振り返り心配そうな顔をしていたが、無視した。


時たますれ違う見知らぬ男達の視線が痛い。
三蔵一行だとか、三蔵サマだとか、そんな憧れの眼差しじゃない。
『沙悟浄』か、はたまたただのソックリさんか、見定めているような眼。


…気持ちわりィ。
逃げ出したい、早く、ココから。


「あ!宿あった!」


悟空の声にハッと顔を上げる。
そこまで立派でもなく、貧相でもない造りの宿。


「何してんだよごじょー!早く!」
「あー…ワリ、煙草切らしてたわ」


シニカルな笑みを貼り付け、ヒラヒラと手を振りながら宿を背に歩き出す。
悟空が何か言っていたが、聞こえないフリを続けて足を進めていった。



「…ンだよ、アイツ…」
「ボサっとしてんじゃねぇ、行くぞ猿」
「猿じゃねーよ!あ、おい待ってって!」


追いかけてくる悟空から目を逸らし部屋へ向かう途中、三蔵は舌打ちをした。
旅を続けているとぶつかる視線は何度か体験してきたものだ。
『禁忌の子』という象徴の、真紅の眼と髪。
災いを起こすと恐れ蔑む町は幾度となく体験してきた。
だが、今回は何かが違う。

恐れるというよりは――欲望をぶつけるような、忌々しい視線。


部屋につくなり八戒はお湯を沸かし、一人分のグラスを用意した。
コポコポと沸騰した音が部屋に響くころ、悟空が口を開いた。


「あー…腹減ったあ…」
「そうですね、三蔵、あの様子ですと悟浄も
 戻ってこなさそうなので、先に昼食にしませんか?」
「あぁ」
「やったあ!メシだー!」


ベッドで突っ伏していた悟空は昼食と聞くと急に黄金眼をキラキラと
輝かせ、飛び降りるように立ち上がった。


「行こーぜ!三蔵、八戒!」


パタパタと階段を下りていく悟空の様子に溜息をひとつ、
二人は後を続くように宿を後にした。
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