saiyuki novel

□Chateau HAUT BRION(35)
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規則的なベットの軋みも
唯の女でしかない喘ぎ声も

いっそ何も聞こえなければいいのに




Chateau HAUT BRION



この関係が始まったのは丁度一ヶ月前。
賭博場や酒場、活気のある街は久しぶりで。
浮かれ気分な悟浄は、いつものように悟空と言い合いながら
空腹を満たし、煌びやかな街へ繰り出していった。

同室の三蔵は以前、明け方に帰宅した悟浄が鍵を閉めて眠る
三人を起こそうともせず、廊下で潰れて風邪を引いた奴の姿を思い出す。

「…チッ」

軽く舌打ちをし、鍵を開けた。



そんな三蔵の気遣いに気づく事のない悟浄は、賭博で稼いだ金で
その場に集まる女に酒を振る舞い、静かな酒場で旨い酒を堪能していた。
店内は紅を基調としたどこか落ち着かない、ワンランク上の空間。
世間で忌み嫌われる色を集めた張本人は、落ち着いた様子でグラスを磨いている。
綺麗に整えられた金の髪、長い睫、袖から見え隠れする腕からは無駄がない筋肉が見え隠れする。
まるでどっかの生臭坊主みてーだ、と心の中で悪態を吐く。
視線を感じたのか、“紅”に囲まれた主はこちらを振り向き微笑んだ。


…さっきの発言撤回。
あいつがこんな顔したら、真夏に雪が降るぜ。


「…綺麗な髪だ、それに……瞳も」


優しく微笑む生臭坊主を想像して吹き出しそうになるのを堪えていると、
急に話しかけられてビクッと肩を震わせてしまった。


「あ、え、もしかして俺のコト?」


冷静を装い、屈託のない笑顔で対応する悟浄を見つめながら男は頷き、
先ほどと同じように悟浄の“紅”を称賛する。


「男にモテても…ねぇ」


自分の“紅”を褒められる事が苦手な悟浄は「ま、いいか」と、心にもない
言葉を吐き出し引き攣った笑みを浮かべながら、ポケットから小銭を探し
この場を逃げようとするが、男はそれ制した。


「僕からのプレゼント。受け取ってくれるかい?」


コトン

静かな音を立ててテーブルに置かれたグラスの中には、透き通るような“紅”。
大分アルコールを含んだ悟浄の鼻にも届くツンッとしたアルコールの香り。
有無を言わせないような微笑みを向けられた悟浄は諦めたようにポケットから手を出した。


「オニーサン、何で……“紅”が好きなわけ?」


相当酔いが回っているのだろうか、悟浄は礼を言うことも忘れ此処に来た時から
感じていた疑問を、この空間を作り出した“紅”の主にそのまま問いかけた。


「好きなんだ、ただ、それだけだよ」

「…そか」

男は、眉を少し下げて困ったように微笑んだ。
理由もなくただこの災いを齎す色を好きだと言う男に少しだけ安心感を感じたのか、
それとも、この紅の空間に居心地の良さを見出してしまったのか。
悟浄は不思議な感覚に囚われながらも、差し出されたグラスの中身をゆっくりと口に含んだ。
口内に広がる上品な甘さを堪能し、コクリと喉を鳴らすと熱いものが流れ込んでくる。
余韻に混じる動物的なアロマが特徴のふくよかさが心地よい。


「…いーね、なあ、コレ何?」


「名前はないけど…君の味を考えて勝手に手が動いていた」


「俺ってば、すげー上モノ?」


女を口説くような甘い言葉を、まるで世間話のように話す男に対して軽口を
叩くと「えぇ」とニッコリ微笑まれたので何だか照れくさくなり視線を逸らした。


「シャトー・オー・ブリオン」

「あ?」


聞きなれない横文字を呟く男に視線を戻す。
男は目を合わせるのを待っていたかのように口を開いた。


「洗練された香りと見事なルビーの輝きをもつワインに、
 喉が焼けるほど高い度数のクエルボホワイトを混ぜ合わせたものだ。
 綺麗な“紅”を纏う貴方の心の中を表現できていたかい?」


上品に嗜むワインと、一気に飲み干すテキーラ。

自分の闇を決して他人には知られたくない。
『愛』が何なのか分からないまま、『愛』に飢えていた自分。
…今だに、飢えている自分を隠し通すためにどれだけの女を抱いてきただろう。
その都度感じる虚しさを忘れるために酒と煙草に溺れ、また、違う女を抱く。
諦めたつもりでも、自分の中で決して諦める事ができない強い欲求を隠すかの
ように、紅い液体は色香を纏い、誘われるような甘さを醸し出す。

相反する液体を眺めながら、悟浄は嘲った。


「『愛情』が何か、知りたい?……沙悟浄君」


隣から聞こえる声にハッと視線をやると、目の前に居た男は
いつの間にか隣の席に腰を下ろしてこちらを見ていた。


「まさか、俺ってば有名人?」


驚きを隠し、平静を装うように軽口を叩くと目の前の“紅”を飲み干した。
隣に座って微笑みかける男に対して、悟浄はいつでも逃げられるように警戒する。
悟浄を取り巻くアロマの香りがより一層強くなったことを感じた瞬間、視界が霞んだ。


「そろそろかな」


悟浄に向かい立ち上がる男に危険を感じて、逃れようと足に力を入れると、
力が入らず倒れそうになる悟浄を抱き抱えたのは、目の前の男だった。


「ッて…め、なに、した…」


ゆらゆらと揺らめく視界の中、真紅の瞳は力強く男を睨む。
絶望の淵に立たされても尚脅える事のない紅を腕に抱えたまま、男はほくそ笑んだ。




――――――――――

久しぶりに妄想を書き殴り
文章能力の無さに沈没しました
何より35なのに3が少ししか出てこない…

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