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□シクラメン
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「青峰くん、部活は?」
「出ねぇ。」
「そっか。」
さつきちゃんから聞いた。
青峰くんは部活にさっぱり出ないと言う。どうして出ないのか聞きたかったけれど、なんとなく二人に聞くのはやめた。

日がいくらか経つにつれて、私と青峰くんはよく話すようになった。
食べ物だとこれが好きとか。
何してる時間が一番いいとか。
苦手な授業は何だとか。
とにかく他愛のないこと。
バスケの話は、どちらが避けているのか、していない。
でも、この時間が私は好きだ。
青峰くんはあまり話すタイプではないけれど、私の話に相槌をくれるし、とても静かに笑ってくれる。


「何してんの。」
「あ、青峰くんだ。」
今日は放課後の中庭で会った。
私は園芸委員の仕事で、花壇の土に花の苗を植えていた。
青峰くんが私の隣にしゃがむ。
今日も部活、サボってるんだ。
「これ、なんの花?」
「うん?これはシクラメン。」
「あー聴いたことあるような、ないような・・・、」
「花が咲けばわかると思うよ!」
シクラメンの苗に優しく土をかぶせて、ジョウロの水をかける。
「まめだよな。お前。」
「え?」
「こういう、花植えるとか。」
「そうかな。でも園芸は元々好きだし、花も大好きだから。」
「ふぅん。」
次の苗を植えようとした時、

「紫苑。」

「・・・え、」
びっくりして振り返る。
青峰くんはなに食わぬ顔でこちらを見つめているだけ。
待って、今、名前・・・はじめて、しかも下の名前・・・、
「なな、ななななんでございましょう!?」
すごいどもり方だと思うが、仕方ないと思う。
「ぶっは!おま、なんだそれ!」
「わ、笑わないでよ!!」
「くっ、それと、」
土ついてるからな。
と言われて、長い骨張った指で頬をなぞられる。
しばらく何があったかわからず、思考が停止してしまったが、顔にみるみる熱が集まっていく。
いくらお友達でも、恥ずかしいものは恥ずかしいし、
しかも青峰くんは絶対にイケメンという部類に入るし、
これは、こういうのは!
「お、ま、!一人で百面相して、ぶふっ、」
「あっ、青峰くんがいけないんでしょう!!!」







シクラメン
(はずかしがりや)


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