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□ポピー
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「悪いけど、君はマネージャーとして入れられへん。」

「・・・え?」


さつきに半ば無理矢理連れてこさせられて、これを見ていた。
今吉さんと、ショートカットの黒髪をしたやつ。
さつきは驚いていた。
聞こえなかったが、今吉さんが言ったことはある程度わかる。
そいつは深々と礼をして出口へ歩いていく。
「まって!紫苑ちゃん!」
さつきは血相を変えて追いかける。何かを言っているようだけど、そいつはさつきに困った様に笑うと出て行った。
「マネージャー志望の子でなぁ。」
「・・・。」
いつから居たんだか、今吉さんが横に立っていた。
「うちは有能なのしか求めてへんって言うてしもたわ。」
「そんなことだろうと思ったわ。」
今吉さんは胡散臭い笑みを深める。
「かわいそうになぁ。」
「だったら断るなよ。」
「せやかて、うちは最強目指してんねんで。後々足手まといになるのは目に見えてんねん。」
本当に、容赦なく毒を吐く。
まぁ、正論をかざしているのだけれど。
呆然と佇むさつきを一瞥して、俺は出口へ向き直る。
「帰るわ。」
「慰めに行くん?」
にやにや、そう聞いてくる。
「んな訳ねぇだろ。」




どうして俺は来てしまったのだろう。
小さく溜息を吐いた。
自分はこんなにお人好しだったろうか。

中庭に出たら、そいつはすぐ見つかった。
木の下に小さく体育座りして、声も出さず泣いていた。
いっそ痛々しい。
本当にマネージャーになりたかったんだろうな。
しばらくしたら、そいつは立ち上がる。と思ったらよろけてカバンの中身をぶちまけた。
そして、しゃがんだと思ったら今度は転がった。
ど、鈍臭い・・・!
俺は息を一つ吐いて、そこへ向かい、まだ起き上がらないそいつのカバンの中身を元通りにした。
しゃがんだまま、そいつを見ているとようやく顔を上げた。
丸い真っ黒な瞳と目が合う。
長い睫毛は濡れていた。
「ご、ごめんなさい。ありがとうございます。」
カバンをおずおずと受け取ったのを確認して立ち上がる。
よし、帰ろう。と思ったら、
「青峰、大輝。」
「あ?何で、」
そう、呟いたのが聞こえた。
彼女は焦ったように下を向く。
「あ、あの、バスケが好きで、」
なるほど。
あっそう。と適当に返しておく。
「あのさ、何で泣いてんの。」
そう聞くと、丸い目が大きく見開かれて右往左往した。
「・・・え、と・・・、」
意味のない言葉を発して、下を向き、スカートを握り締めている手が震えている。
この質問はいけなかったか。
溜息をついて、自分のエナメルをあさり、タオルを出す。
それを彼女の頭にかぶせた。
訳がわからない、と俺を見つめる顔が間抜けで少し笑いそうになった。
「好きなら、好きのままでいいんじゃねぇの。」
好きなだけじゃ駄目なんて言うバスケ部はこの高校くらいだ。
この高校じゃなければ、熱心さを買われ、マネージャーをしていただろう。
運が、悪かったのだ。
だから泣くことはないと思う。
彼女がタオルに気を取られている間に、背を向けて歩き出す。
遠くにポツリと座った彼女は、今度はタオルに顔を埋めて泣いた。

何で構ったかなぁ、と溜息を吐く。
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