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□賢者愚者
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賢者だと呼ばれた自称愚者


「死にたくないんだ」

そんな風に考えたのはいつだっけ。
今は主君のためなら死んでも構わないという覚悟は出来ている。

それでもやっぱり本心は死にたくないと願っているし必要な犠牲なら喜んで死のうと思ってもいる。

矛盾したこの感情はどちらも本心だけどきっと違う世界に生まれていたなら違うように考えただろう。

敬愛すべき主君にも逢わず、自分の為に生きられただろうか。

運命に形づくられた現在は逃れることはできなくて。

あぁ、ダメだ。
その人はこの国に必要なのだから。
考えるよりも先に体が動いて彼を狙った矢は自身の身体を貫いていて膝がおれそうになるがまだ彼を襲う悪意は終わっていない振り上げられた剣をその体に受けて切り返すように敵を倒して漸く俺は地面に倒れた。

最後に見た彼の顔はどんな表情をしていたのだろうか遠くなる意識、俺を呼ぶ幼い頃から一緒にいた彼の声、

そこでブツリと意識は途絶えた。




賢者だと呼ばれた自称愚者2

ふと昔の記憶を思い出した。
昔、それは前世の話。
突然ふってわいたようなそれは耳鳴りを起こしてたっていられなくなった。

記憶よりずっとずっと地面に近い視線。
滝のように流れた汗はその記憶を拒絶するようでギュッと心臓を握られたかのように胸がいたくなった。

彼は今どうしているだろうか。
あれからどれくらいの時間が経った?
それともここは彼が存在しない世界なのだろうか。

ジワリジワリと記憶が現在を侵略していく感覚。

今までの自分を失ってしまいそうなそんな危うい何か。

俺は今、息が出来ているのか。
世界は、彼はあのあとあの世界を生き抜いたのか。

絶対的な君主だったかれは。今。
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