英雄と呼ばれた男
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名もなき英雄に栄光あれ
昔々、この村には英雄がいた。
英雄を称えた石像が村の中心に立っているほど有名で皆に望まれた英雄が。
あぁ、だけどおかしいの。
英雄を称えているはずの石像は顔がないの。
あんなに多くの人々に求められていたのに、あんなに多くの人々を救ってきたのに。
この世界の誰も英雄の顔を覚えていないから。
命を落としてまで魔物を倒したと言うのに誰一人本当の名前すら覚えていない。
助けられた事実はある。
多くの人が覚えてる。
でもいつしか彼は英雄と呼ばれて名を呼ぶひとがいなくなったから。
親友だと豪語していた酒場の大男も共に冒険したと言っていた賢者も命を落とすその場にいた村人でさえも名前をしらなかった。
英雄はいつだって受け入れた。
彼の口から否定の言葉を聞いたことがなかった。
何もかもわかっているかのように頷き。
どんな人間もすくった。