英雄と呼ばれた男
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誰かの言葉
憎い男が死んだ。
魔王を道ずれに、世界の悪を、魔物を道ずれに世界を救った男が、死んだ。
人を救わない無慈悲な俺の対極にいるような男。
だけど、その本質は悪魔に酷く近かった。
憎かった。
恨めしかった。
死ねばいいと、思っていた。
不幸が襲えばいいのだと
男を呪ってやった。
だけど、死ぬ間際まで憎い男の目は曇らなかった。
家族を愛していた本心は死んでも揺らがなかった。
死んでなお家族を守り続ける。
変わった、男。
自分の命よりも家族をとった。
本心は、
本質は、
他人などどうでもいいと思っていた男が、
家族を守るためだけに自分の命を捧げてまでも血の繋がりの永遠の幸せを作った。
(あーぁ、バッカみてぇ…)
そんな男がいつまでも好きにはなれなかった。憎かった。はず、だった。
(テメェが死んでちゃ世話ねぇぜ)
男に与えた力は予想以上に強力になっていた。
切っ掛けを与えたのは俺だった。
少しだけ魔法が使えるようにして、少しだけ身体能力を上げて魔物、敵を倒せるようにと、力を分け与えた。
確かに鍛えれば威力が上がるようにと、扱える魔法も増えるようにとしてやったが、普通の人間なんかには到達出来ないような域まで男は強くなっていた。
魔物を、悪を、全て封じる技などただの人間に使えるはずがないと思っていた。
弱い、たかが人間だと。
誰かを守るために命を捧げるような男ではなかったはずなのに。
自己中心的。
他人なんてどうでもいいと思うような人間にして最低な男。
上っ面だけの仲間ならいくらでもいた。
その心は誰にも開かない、孤独な男に面白がって力を分け与えた。
力を与えたあとも滅多につかうこともなかった、男。
自ら争うことを好まず、高みの見物をしてばかりだった、そんな奴が、
ある女に出会ってから変わった、
自分ばかり守っていた男に、心を開き守りたいと思わせた変な女。
平凡な女だった。
探せばそこらじゅうにいそうなくらいどこにでもいそうな女。
孤独な男を変えた、女。
面白くない、面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない面白くない!
偏屈な男を変えた女が嫌いだった。
変わってしまった男が憎かった。
家族を作る男が呪わしかった。