英雄と呼ばれた男
□6
1ページ/1ページ
英雄。
俺は昔から1人で何もかも出来るような器用な人間だった。
いや、できなければ恐らくあの場所では死んでいた。
物心のついたときには既に俺は1人で周りには助けてくれるような人間はいなかった。そこは治安の悪い子が生きるには環境が悪かった。
それでも死にたくないという一心で俺は生き延びることが出来ていた。
生き延びるためには何でもやった。
盗みも働いたし暴力も振るった。
時には相手の命を奪うことだってあった。
他人の命を初めて奪った瞬間は何も感じなかった。こんなに呆気なく人は死ぬのかとぼんやり思った。
時間が経って俺は腹の中身をぶちまけた。
今更になって人を殺したことに罪悪感がわいたのか、それとも食ったものが悪かったのかその時の俺には判断する術はなかった。
喉がひりつく。
腹のなかなどほとんど何もつまってないせいか大半が胃液のようなものだった。
軽い脱水症状がでかかっていた。
死なない為にと川へと下り顔を突っ込んだ。息苦しさに目眩がした。
どうしてこんな思いまでして俺は生きようとしているのか。
いつしかそう考えるようになった。
自分以外は信用できない。
皆が敵だと路地裏でひっそり身を隠した。
命の危機に身を縮ませる毎日だった。
深い安眠などした覚えはなかった。