英雄と呼ばれた男

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英雄を求める



平和をのぞんだ。
平穏をのぞんだ。

家族が、
愛する人々が、
皆が、

幸せになれる世を
願ってきた。


それでも救世主はあらわれなかった。
世界を覆う悪意は人々を怯えさせ疲弊させていった。

いつ殺されるのかと
皆、ビクビクとしながら生きた。

そんな世界に子どもたちを愛する人を
暮らさせていたくなかった。

だから俺は何度も立ち上がり
悪意を脅威を敵を
幾度となく退けてきた。

少しでも平和に平穏に
たくさん笑えるように

ただそう願って戦ってきた。

それなのに多くの人間は
俺一人では抱えきれないほどの
願いを悪意を脅威を運んできた。

そのたびに
ひとり
戦いにでた。

いつか来る脅威を無くすために。
たった一人で
全てを倒した。

いつしか体を蝕む多くの怪我を負っていた。

それが元で俺は日に日に衰え
やつれていった。

それでも民衆は俺を英雄と崇め
助けを求めることをやめなかった。


俺は人々を救い続けた。

酷使し続けていた身体はいつしか限界を向かえ遂には起き上がることすらできなくなった。

俺が弱るたびに拡がる脅威。
広がり続ける悪意。
立ち向かうものはいなかった。

せめて、
このまま弱り朽ちていくくらいならばと
俺は残りわずかな命をとして
世界に光をもたらした。

俺がいなくなった世界でも
妻と子が、
生きていけるようにと、

彼女たちに永遠の祝福を。


そうして俺は怒濤の生涯を終えた。


(妻と子の血筋が続く限り世界が平和であるようにと英雄は魔法をかけた。世界は英雄の望んだように束の間の平和になった)

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