英雄と呼ばれた男

□3
1ページ/1ページ

英雄は勇者で男の一般人


男は確かに英雄になったが
英雄になる前の彼を
人々は知らない。

彼が勇者だと
呼ばれるまでになったのは
それこそ数々の多き壁を乗り越えてきたからである。

男は狡賢く。
善人に見えるが身内のことしか
考えられないような
心の狭い男であった。
救われるのは自分たちだけでいい。
他などどうなろうと知ったことではない。

英雄とよばれた男はそんな男だった。

しかし彼は何度も家族を救い、
それが結果的に世界を救うことに繋がっていた。

幾度も幾度も繰り返される争いは
男に平穏を与えることはしなかった。

男はなぜこうも家ばかりが被害を被るのかと嘆き頭を抱えること数多であったがそれでも家族を見捨てることだけはしなかった。

何度も何度も遅い来る敵は
そのたびに家族を危険に晒した。

必死の思いで家族を守った。
時には致命傷になるような怪我も負った。

それでも休んではいられなかった。
自分が弱れば家族を護るものがいなくなるからだ。

男は何度でも立ち上がった。
理由など容易く。
男の目には家族しか写っていなかった。

民衆の声など聞いてはいなかった。

男の頭には家族を守る。
ただそれだけだった。

いつしかそれらもできなくなるほど身体は弱り脆弱になっていった。

息をすることすら辛くなった。
肺を空気が満たすたびメキメキと骨がなるような音が聞こえた。

指を動かすことすら億劫になった。

今ではもう、泣いている妻の涙を拭うことすらできなくなった。

意識すら怪しくなった頃再び悪意が男を家族を襲った。

生きることすら危うくなった男の身体で出来るのは命を掛けた最大の魔法のみだった。

か細く聞き取れないほどに小さな声は
家族を守るための言葉を確かに放った。

そのあと世界は救われた。
代わりに
男は命を失った。


英雄は二度と動くことはなかった。


(泣き叫ぶ声だけが男の家から聴こえていた)

↑悪が滅んだと永遠の平和が訪れたのだと盛り上がる民衆のなかに英雄の家族は誰一人として参加しておらずただ一つの家から聞こえる女の泣き叫ぶ声だけが響いていたが宴で盛り上がる人々の耳には誰にも聞こえていなかった。

いや、聞こえないふりをしていた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ