英雄と呼ばれた男
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英雄になりたいわけじゃなかった。
求めたのは平穏。
家族と笑い会えるような
温かな世界。
怯えの元凶を退治した男は
いつしか英雄と勇者だとよばれた。
人々は脅威が襲うたびに
男に助けを求めた。
男は家族を護るために戦った。
そして幾度となく勝利してきた。
人々の期待に応え見事に世界を救った。
何度も何度も
しかしいつしか男は疲れ、悩み、
病に伏した。
それでも人々は彼に救いを求めた。
病に倒れてもなお男は家族の為に、家族のための平穏のために戦った。
彼を助ける味方などいなかった。
仲間などいなかった。
あるのはただ家族だけだった。
ついに男は起き上がれぬ程に病が悪化した。
それでも人々はまた大きな脅威が襲ってきたとき男が助けてくれるのだと疑っていなかった。
男は動かぬ身体と命をとして世界に半永久的な平和へと導いた。
人々は皆、歓声に包まれ喜び唄を歌った。
そのなかでただ一人、
男の妻だけが泣いていた。
(人々が求める英雄はただの男だった)