書殿
□訪零
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「はあ...全く恐ろしいよ、アンタは」
麒麟寺がやれやれと言った様子でボヤいた。
何せ、"乗物"がなくともここへ来れるのだから。
『王鍵を与えた意味がない?』
「そんなところだな。ったく...時守ってのは便利だ」
"時守"
綾美は度々そう呼ばれる。
自身、それをあまり気に入ってはいないが。
『本題....私の言いたい事、わかるでしょ』
────言いたい事
そんなの山ほどある。だから察して欲しい。この苛立ちを。
「京楽春水から聞かんかったか。そのままじゃよ....今の護廷十三隊は尸魂界を守るにはとても乏しい。それに、世界は流動を始めておる。お主も判っとるじゃろて。」
『世界は留まらない。流動する物だ。』
「"時守"が手を下さねばならなくなる程堕落するまで放っておけ、とな?」
兵主部一兵衛の丸っこい瞳がギョロりと見開かれた。それでもまだ、瞳の奥に隠れる真意は見えない。
"時守"の調律が入るのは、著しく世界としての存在が危ういと認められる時。
『つまりは、尸魂界がある程度の世界バランスに復帰するまで私がサポートしろと?』
「流石理解が速い!」
はっはっはっ
と言わんばかりに腕を豪快に組み、鼻をフンと鳴らす。
実際、虚圏も不安定な状態が続いており、現世、尸魂界を含めた三界は以前ほどの安定感はない。
十刃を帰還させたところですぐに補えるものでもない。
他の二界が現世へ与える影響は顕著だ。
前回ここを訪れた時、彼らには一通りその話をしてある。
そのバランス崩壊を以前から察しており、綾美の訪れを待っていたのであれば、ある程度は筋の通る話だ。