書殿
□訪零
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本当は行きたくない。
空に浮かんだあんな処なんて。
しかし、この件を決行したのは"零"だ。
私の尸魂界帰還が分かるのは、同じ王鍵を持つ彼らだけ。王鍵の呼応。
私を待ち伏せていた、というところだろう。
どれ程前からこの件を温めていたかは知らないが。
苛立ちで手を強く握り締めてしまい、手のひらが真っ白になっていた。その手をそっと袖の中に隠し、表参道を早足で進む。
久方ぶりの霊王宮。
やはり、壊滅的被害を受けたせいで雰囲気が少々変わったように見える。
よく、再生されている。
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「ほう。まさかこっちまで来るとはのぅ」
霊王宮大内裏。
『...通りで参道に出迎え一人いない訳だわ』
兵主部一兵衛らをはじめ、零全員が大内裏に集まっていた。
「すまんすまん...」
『"まさか"こっちまでって...?私が来るって分かってたからこそ、全員で其処に居るんでしょう』
無言は肯定。
綾美に向けられている笑みとは裏腹に、底知れぬ何かが透けて見えるようで。
『私がその"抜け殻"を消すとでも思った?』
彼女が顎でしゃくってみせたのは、彼らの後ろで音もなく存在する楔。
「まあまあ、そう殺気立たないの」
『殺気立ってない』
残った死体を祀っただけに過ぎない、形の王。中身のない抜け殻。
中身がないなら私と同じ...?
違う、私は無くしたのではなくて最初から無いから。
だから抜け殻じゃない。何も抜けてない。
曳舟が綾美を宥めようとするも、彼女の苛立ちが収まる気配はない。