ライバル高校排球部

□理解できない痛み(リエ夜)
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むさくるしい野郎共に囲まれての合宿も3年目ともなると、もはやなんとも思わなくなってくる。
チームメイトとはいえ、見ず知らずの連中と大部屋で何日も一緒に過ごすともなると、それなりに問題も出てくる。
うちみたいな大所帯になると、なおさらだ。




「おいこらリエーフ!おまえ無駄にデケェんだから端っこいけよ!」
「えっ!嫌ですよ!寂しいじゃないですか!」
「甘えた事いってんじゃねぇ!」

山本とリエーフがやいのやいのと騒いでいる。他のみんなはもうへとへとで、突っ込む気力もないらしい。
研磨にいたっては、さっさと布団に入ってもう寝ている。

「夜久さんもなんとか言ってやってくださいよ!」

おっと、矛先がこっちに向いたか。

山本が縋るリエーフを足蹴にしながら、俺を呼ぶ。周りのみんなの視線も、何とかしてください寝られませんと訴えている。




クロと海は主将会議とやらでまだ帰ってこない。


こんな時、こういう役回りはいつも俺にやってくる。

仕方なく、俺はわざとこれみよがしに大きいため息を吐いて俺よりでかい問題児達を睨み上げた。

「そんなに元気があるなら2人とも明日からレシーブ練倍に増やすかぁ」

床に転がるリエーフが、今度は慌てて俺の足に縋ってきた。人一倍長い手は、ちょっと伸ばしただけで容易に俺に届いた。

こいつを見下ろすっていうのは不思議な感じもするが、ここは先輩としての威厳を十二分に発揮するチャンスである。

山本も姿勢を正しあわあわとよくわからない言い訳をしている。

内心ニヤニヤしながらも厳しい表情は崩さない。


こいつらに甘えは禁物なのだ。



「山本はソコ!リエーフはココに寝ろ!異論は許さん!いいな!」

ビシィ!っと空いてる布団を指差し有無を言わせない雰囲気を醸し出す。
オッス!と叫んで山本が布団にガバッっと飛び込んだ。みんなもホッと胸を撫で下ろしたのがわかる。




ただひとりを除いては。




俺の腰に取り憑く妖怪みたいな奴。
恨めしげにこっちを見上げている。

「・・・・・・・・・・・」

無言の抗議に何を言おうか考えあぐねていると、すぐそばのドアから俺の救世主達がタイミング良く帰ってきてくれた。

「おい夜久。廊下まで聞こえてっぞ」

クロがやれやれといった風に、且つ、ニヤニヤしながら入ってきた。

「問題児担当の夜久くん。俺たちはもう寝るから後はよろしく頼む」

ポンと軽く肩を叩かれ俺の救世主になるはずだった奴らは軽く笑ってさっさと横になってしまった。



ぽかあん。

俺はいつから問題児担当になったんだ?
そういうのはクロの役目じゃないのか?


「・・・夜久さん」

くっそ。めんどくせぇ。


ちらっと下を見ると、こちらをじっと見つめる目とあった。まだ幼さを残した、けど日本人離れした整った顔立ち。

油断したら吸い込まれそうな瞳に、つい魅入ってしまっていた。

「夜久さん。一緒に寝てください」
「はああああああ?」
「寂しいの嫌なんで、一緒に寝てください」
「はあ?お前バカなの?なんでそうなる訳?!」
「おー、寝てやれ寝てやれ」
「そんなんで大人しくなるならいくらでもやれー」
「うっせぇええ!やるかバカ!」

クスクスと笑いをこらえる声に、クロが軽く制した。

「はいはーい。イイコはもう寝る時間ですよー。研磨見習えー。夜久、電気消せー」

しぶしぶとリエーフはドアに近い壁の一番端の布団に向かうと、そこは俺と頭合わせの場所だった。
まあ隣同士じゃないだけ良しととするか。



・・・っっってえええええ!

「おいリエーフ!俺の布団にまではみ出てんじゃねぇ!」
「だって、布団小さいんですー。夜久さんとこ余ってるからいいじゃな、グホオゥ!!!」

言い切る前にそばにあった枕を腹めがけてスパイク決めてやった。
それは何か?
俺が小せぇからとか言いたいのか?

確かに合宿所の布団はリエーフには短くて、頭一つ分飛び出ていた。だからといって他人の布団にまで侵食していい理由にはならない。
しかし、

「それで妥協してやれよ。朝起きれなくなるぞ」

クロが言う。

「ちっ。わかったよ」

俺は、半ば自棄にになって電気を消した。







月夜がわずかな光を部屋に落とし、小さな寝息と規則正しいいびきが聞こえる。その中に混じって少しくぐもった苦しそうな息が聞こえた気がした。


わずかに感じる違和感にうっすらと眠気から覚めていく。

その苦しそうな息は、自分のすぐそば。

おでこあたりにふわふわするものが当たってくすぐったい。うっすら目を開けておでこに手を持っていくと何かに当たった。

「・・・ん?」

それを認識するまでに結構な時間がかかった気がした。

自分の頭のすぐ近くにあったのは・・・髪の毛。

(リエーフ!!??)

流石に声には出さなかったものの、ありえない至近距離にビビる。

いやマジで近すぎだろ、これ。

リエーフを起こさないようにゆっくりと頭を離すと、目が慣れてきたのかリエーフの寝顔がわずかに見えた。
普段は釣り目気味の、ちょっときつい印象にも思える顔も目を閉じていると可愛くみえるから不思議だ。



でも・・・なんか・・・、おかしい。





リエーフの息遣いが、少し、苦しそうだ。

「〜〜〜〜っっ!」
「(おい、大丈夫か?どうした?)」

他の奴には聞こえないように、小さな声で話かけてみた。
リエーフはわずかに目を開け、口元が動いてなにかを伝えようとしていた。
眉間にしわを寄せて苦しそうな表情だった。
一旦離れた頭を寄せて、何?と聞き返した。

「ミシミシ・・・って、、、」
「(は?)」
「足がミシミシする・・・」

長い四肢を折り曲げ、痛みに耐えるようにシーツを握り締めている。昼間からはまったく想像つかない様子にどうしていいかわからない。

「や・・・く、さん、、、」
「ん?なに?」
「こわ・・・、い」


恐い?何が?


なんだ?どうした?

夢でもみたのか?いや、足がミシミシするって言ってたし、でも怪我してたとかじゃなさそうだし。



「・・・あ。」




思い当たる事があった。
昔、クロが言ってた。
背が伸びる時になんか音がする。みたいな。
本当かどうかはわからないけど。
俺にはそんなものなかったし。

「やく、さ、、、」

助けを求めるようにリエーフの細い手が伸びてきた。さっき俺の足元に縋ってきた時とは違って、弱々しい。
俺はなるべく音をたてないように身体を起こし、リエーフの枕元に座って安心させるようにその手を握り締めた。
細い身体はまだ未完成で、それでも容赦なく成長は続いて、まだ幼い心はその急激な成長に追いつけずに戸惑い、恐怖さえ覚える。





俺には、理解できない痛みだ。





小さい身体にもそれなりの悩みはあるんだが、背の高い奴にもそれなりの苦しみがあったりするんだな。

「明日になったら大丈夫になるから」

空いてる手でポンポンと頭を撫でてやる。
並んで立つと30cm近く上にある頭がいまここにあると思うと、なんかよしよしとしたくなったのだ。
俺に頭を撫でられたのがよっぽど意外だったのか、それまで苦しそうだったリエーフの顔が驚きの表情を浮かべ、そして嬉しそうに口を緩めてゆっくり目を閉じた。
暫くすると、静かな寝息が聞こえてきた。






まったく、甘えは禁物だったんじゃねぇのか。と苦笑と共に自分に突っ込みをいれる。




大きな子供は眠ったまましっかりと俺の手を握って離すことができない。
仕方なく、俺はそのままリエーフの傍で眠ってしまった。





次の日には、甘やかした事を激しく後悔するともしらずに。

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