烏野高校排球部

□今日は何の日(東西)
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「旭さん!今日なんの日だか知ってますか?」
「へっ?今日?」
「はい!」

東峰は朝練に向かう通学路の途中、珍しく西谷を見つけた。向こうもこちらを見つけてダッシュで駆け寄ってきて、挨拶よりも先にこんな事を言い出した。

そもそも、いつもの西谷なら今頃とっくに学校に着いてる時間だ。
なんでこんな時間にここにいるんだろう?
っていうか、何の日ってナニ?
まだ寝ぼけている脳みそをフル回転させてみても、全く思い当たらない。
この8月の真っ只中、夏休みだから祝日とか関係ないし、誰かの誕生日とかでもないし。



「ゴメン、西谷。まったくわかんない」

ぽりぽりと頭を掻いて東峰は素直に降参した。

「えー!ちょっとは考えてくださいよ!」

これでも結構考えたんだけど、と心の中で呟いたが東峰は声には出さずにハハッと軽く笑って歩き始めた。




朝練に遅れるほどではないが、のんびりしてる暇もない。ちょっとでも遅れようモノなら澤村の辛辣な言葉が待っているからだ。
西谷は拗ねた様に頬を軽く膨らませながら隣に並んで歩き始めた。少し不満げなその顔は、東峰にとってはとても愛らしく映る。
朝から西谷に会えただけでもラッキーなのに、こんな可愛い顔も拝めるなんて。今日はとてもいい日になりそうだ。



視線を感じて西谷が顔を上げると、いつものふんわりとしたとても優しい東峰の笑顔がそこにあって、そしてそれはいつも見るよりすこしだけ優しさが割増されてる気がした。



「今日が何の日だかわかんないけど、なんかちょっと良い日なのは分かるよ」


東峰の笑顔に吊られて西谷も笑顔を浮かべた。





「で、何の日なの?」
「はい?」
「はい?じゃなくて。西谷は知ってるんだろ?」
「ああ!今日はハイキューの日です!」

得意げにニカッと笑う西谷。

東峰はキョトンとした顔で思わず足を止めていた。




少し間が空いて、はい?とさっきの西谷と同じ言葉が今度は東峰の口から出た。

「だーかーらー!今日は8月19日でしょ!だからハイキューの日なんです!」
「いや、うん、それは分かるけど。えっと・・・ハイキューの日ってナニ?」
「もう、旭さん分かってないなあ」

東峰の真正面に立って腰に手を当て、西谷は得意げに胸をバーンと張った。


「今日は排球の日なんですよ?一日中バレーボールやる日なんス!」


西谷の思考回路は直球すぎてついていけない時がある。
今だって一日中バレーボールやってますケド!と突っ込みたくなるのを堪えて、東峰はおう、とだけ答えた。

「だから!今日は一日中、旭さんとバレーボールやるって決めたんです!」
「お、おう?」
「柔軟も対人レシーブも今日は俺とペア組んでください!」
「あ、ああ、うん。いい、けど・・・」
「マジすか!やったー!予約終了!」
「予約って・・・」
「だって、旭さんいつもペア組む時って大地さんかスガさんじゃないですか!だから今日は一番に会って予約いれとかないと!って思って!」
「そりゃあ他の連中じゃあ体格が違うから、どうしてもそうなっちゃうんだけど。でも・・・」


東峰の途切れた言葉に西谷は少し首を傾げた。

真っ直ぐに見つめる西谷の大きな瞳に見つめられ、東峰は照れ笑いを浮かべて続けた。


「西谷ならいつでも大歓迎だよ」






山の隙間からゆっくりと朝日が昇って、東峰の顔を照らし出す。
にっこりと笑うその笑顔が眩しいのは、朝日のせいだけじゃないと西谷は思う。
旭さんは時々とても輝く時がある。そう、この夏の朝日の様に。
西谷が眩しそうに少し目を細めて東峰を眺めていると、すうっと息を吸う音が聞こえた。
東峰の厚い胸板が大きく膨らんで、長い腕を抜ける様な青空へと大きく伸ばした。
西谷も東峰に習って、うーんと身体を伸ばして深呼吸をしてみた。朝の清々しい空気が身体全体に行き渡って、今日という日を歓迎しているみたいだ。






「あ、そうだ」

西谷が突然思い出したように呟いた。

「ん?なに?」
「旭さん、おはようございます」
「あ、ああ。まだ言ってなかったっけ。おはよう、西谷」

西谷の開口一番「今日は何の日?」から始まってしまったので、東峰もすっかり忘れていた。
なんだか間の抜けた挨拶に、二人同時に噴出して笑った。





「そういえば」

今度は、東峰がはたと思い当たる。
そういえば、西谷はなんでこの時間ここにいるのか。


「なんですか?」
「ひょっとして、西谷、俺の事待っててくれたの?」

昇る朝日が今度は、歯を見せてニカッと笑う西谷まで照らし始めた。


「早く行かないと、遅刻しますよ!」
「えっ!ちょっと!西谷?!」

学校までの登り坂を西谷が急に走り出した。
慌てて東峰もそれを追いかけながらチラッと腕時計を見ると、確かに朝練の時間が迫っていた。
澤村の怒号が聞こえる気がして、東峰も必死に走り出す。

「お!旭さん、ヤル気出しましたね!」
「今日一日くらい、西谷に置いて行かれないようにしないとな!」
「負けませんよ!」




夏の朝日が二人を照らし、夕日になって沈むまで。


今日という日が良い日でありますように。

















おはようからおやすみまで、今日はハイキューの日!

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