烏野高校排球部
□好き(東西)
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ねぇ旭さん。なんで俺を好きになったんですか?
自分達以外、もう誰も居ない部室。
ココを占領できるのは、鍵を任されている三年の特権。
明日の朝は用事があるからと、東峰が主将から預かったものだ。
二人が付き合い初めて間もないという事もあり、主将なりの気遣いでもあったようだ。
ま、がんばれよ、と言い残して鍵を渡してくれたのだから東峰は遠慮なく使わせてもらう事にした。
とはいえ、なにかするという勇気は東峰にはもちろんなかった。
だから部室に入るなり西谷が無遠慮にズカズカと近寄ってくるのは、恐い反面ありがたいとも思った。
飛びつくのだけは心臓に悪いから止めてくれと心の中で祈りながら、ジリジリと寄って来る西谷に東峰はいつの間にか壁際まで追いやられてしまっていた。
東峰の背中が壁に当たり逃げ場がなくなったところで、西谷の動きがピタリと止まる。
じぃっと見上げる大きな瞳は、こちらの動きを伺ってるようにも見える。
普段は常に動き回りとても賑やかな西谷だが、時折、何かを見透かす様に集中して黙って見つめる時があった。
今がまさに、それ。
東峰の出方を伺っているのか、それとも次の手を考えているのか、東峰が分かるはずもなかった。
それでも、西谷が何かを待っている様に思えて、東峰はようやくゆっくりと手を伸ばして柔らかそうな頬に指でそっと触れてみた。
手を伸ばせば届く距離に、西谷がいる。
たったそれだけの事なのに、東峰の心の中に暖かな気持ちが広がって自然と笑みがこぼれる。