烏野高校排球部

□雲の上(大菅)
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「七夕ってさー、なんか毎年雨降ってるよな」


スガが部室の窓から落ちる雨粒を眼で追いながら言った。

「そうか?まあ梅雨だしな」

Tシャツに首を通しながら、当たり前のことを返した。

他の連中はもう先に体育館に行っており、俺たちが最後だった。

それでも遅いわけではない。

あいつらが早いだけなのだ。

いつもはもたもたしている旭も、最近は西谷が面倒を見て連れて行ってくれる。

初めての東京遠征を明日に控え、皆のやる気があるのは主将としてはとても嬉しいことだ。





「なあ大地」

「ん?」

「やっぱ曇ってたら逢えないのかなあ」

「は?」

「織姫と彦星」

「お前ってそんな事言う奴だったっけ?」

「えーひどーい」

まだ窓の外を眺めながら、大して感情も込めずにスガが答えた。





俺はそんなスガを後ろから近づいて抱きしめた。

「ちょっ!!!大地!なに?!」

突然の俺の行動に、スガが慌てる。

顔を真っ赤にして焦っている。

かわいい奴め。

俺は後ろから抱きしめたまま、耳元で囁いた。

「雨降ってたって、本当に好きなら逢いに行くだろ」

俺の腕を外そうともがいていたスガがちょっとおとなしくなる。

代わりに、自分を拘束している腕にそっと手を重ねた。

「・・・大地も」

「ん?」

「大地も、逢いに来てくれる?」

俺は腕を少し緩めてちょっとだけスガの顔が見えるようにした。

こんなかわいい事言われたら、いくら俺でも我慢できるわけない。


「雲の上を走ってでも、お前に逢いにいくよ」


白い頬に手を添えて、ふんわりとした唇にそっとキスを重ねた。

スガも遠慮がちだがそれに応えてくれるのが嬉しい。

顔を真っ赤にしながら、スガが離れた。

「も、、、もう、いくべ。遅れる」

「ああ、そうだな」

俺のかわいい恋人の頬にもう一度軽くキスを落とすと、スガは拗ねたように顔を背けドアの方へ駆けていってしまった。





「でも、待ってるだけじゃいやだから」

「?」

「俺も雲の上走って迎えにいくよ」

スガはドアノブに手を掛けながらにかっと笑って、お先にと出て行ってしまった。

「あ、おい!ちょっと待てよ」












参った。だから俺は敵わない。




さっきまで降っていた雨が止んで、雲の切れ間から明るい光が漏れてきた。

晴れていようが雨が降ろうが俺たちには関係ない。




さて、スガから栄養もらったし。




今日もいっちょ張り切って行くか。

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