烏野高校排球部

□大丈夫
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戻ってきた。

エースが戻ってきた。

戻ってきたんだ。








「ノヤっさん、嬉しそうだな!」

龍が後ろから肩を叩きながら言ってきた。

「お前もな!」

「そりゃあ嬉しいに決まってんだろ!」



旭さんが戻ってきた。

何度も何度も後ろを振り返る。

暗い夜道でも、頭一つ抜き出た大きな身体はすぐに見つけられる。

一番後ろから遠慮がちについて来るその姿は相変わらずだった。




以前と変わらない光景。

変わったことといえば、人数が増えたってことくらいか。

すると、影山と喋っていた日向が急に寄ってきて、音駒について聞いてきた。

「俺らもよくしらねぇけど、大地さんとかは上級生から聞いてんじゃねぇの?」

龍が答える。

「合宿もスッゲェ楽しみですっ!!」

「小学校の遠足じゃねぇんだぞ?」

「わっ!わかってますっっ!・・・旭さんもきますよね?合宿」

一瞬、龍と目が合った。

でも、戻ってきたんだ。来ない訳ねぇじゃねーか。

いや、来ないとか言ったらぶっとばすし。

「当たり前だ!引きずってでも連れて行く!」

「なんだその強制参加的なノリw」

大丈夫。

確証はないけど、確信はある。


旭さんは、来る。






まだ坂の途中にいる旭さんに向かって叫んでみた。

「あーっさひさーん!」

日向もつられて一緒に手を振った。

旭さんはちゃんと手を振り返してくれた。


ほら、大丈夫。












部活に来られなかった間、ずっとあんたのこと考えてたんだぜ。

俺がもっとあんたを支える事ができたなら。

俺にもっと力があったなら。

あんたを助ける力が欲しい。


力が欲しい。もっともっと。













「相変わらずノヤっさんは旭さんの事大好きだな」

龍がニシシっと笑う。

ちょっと照れるが、別に悪い事してるわけじゃねぇし、隠す必要もねぇ。

「おうよ。なんか文句あるか」

「いや、いっそ清々しいぜ」

ちょっと間が空いて、龍が言い難そうにつづけた。

「てっきり、その、あれが原因で旭さんに幻滅っつーか、もう嫌いになってるのかと思ってたけどな」

「俺が?旭さんを?嫌いに?」

なんで俺が嫌いにならなきゃいけないんだ?

そりゃ、ちょっとは裏切られたみたいなショックはあったけど、しょーがねーじゃん。旭さんなんだから。

理解できない風な顔を浮かべると、龍はまた笑った。

「いや、なんでもねぇよ。やっぱノヤっさん男前だな」

「なんだよ、よくわかんねーよ」










坂の下のちょっと広い場所で足を止めて後続を待った。

大地さんとスガさんも追いついてきた。

旭さんだけ、まだ後ろの方にいた。








俺は待ちきれなくて駆け寄っていった。

エースが帰ってきた。

帰ってきたんだ。



「旭さん」

辺りはすっかり暗くなり、天上には星がいっぱい瞬いていた。

久しぶりに見上げる、旭さんの顔は少し痩せた気がした。



「お帰りなさい、旭さん」



「・・・ただいま。西谷」

旭さんは柔らかい笑顔で返してくれた。









ほら、もう大丈夫。

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