烏野高校排球部

□原動力
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久しぶりに見たアイツの笑顔はやっぱりとても眩しかった。


「大丈夫か?旭」

久しぶりに一人ではない帰り道。

とても賑やかな皆の中で、浮いていたのだろうか。

スガが一番後ろを歩く俺の隣までやってきた。

「ん?なにが?」

「なにがって、その・・・」

スガが頭を掻きながら言い難そうに視線を泳がしている。

何を言いたいのかはなんとなく分かる。

「アイツなら、大丈夫だから」

だから気にするな。もう過ぎた事を振り返るような男じゃない。

そう言って、スガはいつもと変わらない笑顔を作った。

相変わらず優しい男だと思う。

スガは、とても早い段階で俺の気持ちに気づいていた。

それこそ、俺自身が気づかないうちから。

名前を呼ばれた気がしてふと前を向く。

「あーっさひっさーん!」

西谷と日向が一番前で手を振って早く早くと騒いでいる。

それに軽く手を振って答えてやる。

「な?」

スガがぽんと俺の背中を叩いた。

「うん」





部活の帰り道。いつもと変わらない帰り道。

スガも大地も、西谷も、変わらない。

一年が増えて、すこしだけ雰囲気が変わった。

ここにいられる事が、それだけで幸せな気がする。

「でも、もういいんだ」

「・・・旭?」

まだ冬の匂いの残る冷たい空気を少し吸ってから、いろいろな思いを吐き出した。

「なんていうかさ。諦めがついたっていうか」






「いや、諦めたっていうのも可笑しいか。ははは」

乾いた笑いを浮かべる俺を、スガがじっと見つめる。

まるで心の中を見透かされているかのように。

「あー・・・、いや、うん、なんていうか、」

スガはただ黙って俺の言葉を待っていた。

「好きとか、そんな次元じゃなくて」

「うん」

「自分の気持ちとかじゃなくてさ、」

「うん」

「今日お前らと久しぶりに合わせて、思ったんだ」

「・・・」

「どれだけ一緒にいられるかわからないけど、一緒にいられる限りはお前らの為にやろうって」

一緒にいられなかった時間が、どれだけ苦しかったろう。

いつかは引退して卒業もして、離れ離れになってしまうその時まで。

アイツの為に、強くなろう。




「旭がそれでいいなら、いいと思う」

スガの視線の先には、大地がいた。

大地はすぐ視線に気づいて二カッと笑った。

スガも笑って応えた。

「でももし、西谷がまたお前にまっすぐ気持ちをぶつけてきた時は、今度は逃げずに応えてやれよ」

スガはそう言いながら今度はものすごい勢いで俺の背中を叩き、ニシシッと笑って大地の隣へ走って行ってしまった。










この俺の視界に映る景色を。

俺を理解してくれている大切な仲間と。

未来を担う頼もしくて新しい風と。

一番・・・一番大切な人を。

守れる力を。






「おら旭!ちんたら歩いてると置いてくぞ!」

大地に呼ばれて小走りに駆け寄る。

いつもの坂の下で、みんなが待っていた。






好きとか、嫌われるのが恐いとか。

もうそんな事は関係なくて。

あの苦しみよりも恐いものはもうないから。

だから、強くなる。









「旭さん」

西谷が俺の元に寄ってきた。

夜空に瞬く星を映したまっすぐな瞳にドキッとした。

「お帰りなさい、旭さん」










「・・・ただいま。西谷」



俺は、強くなる。

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