烏野高校排球部

□逃げた代償
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いつからかは覚えていない。

どうしてだかも分からない。

アイツがなぜ俺を慕ってくれていたのか。

聞く勇気なんてありはしない。

ただそれが、嬉しかった。



『旭さん』



俺の名を呼んで。

振り返るといつもそこにはアイツがいた。

一緒にいるだけで元気になった。

無敵な気分になった。



あの日までは。


あんな事を言うつもりはなかった。

アイツはなにも悪くないのに。

俺が一人で自滅していっただけなのに。

それを自分の事みたいにくやしがって。

傷ついていくのが耐えられなかった。

なのに、俺は。

余計にアイツを傷つけた。

あのまっすぐな瞳に耐えられなかった。

耐えられなかった。

逃げた代償は、こんなにも大きな苦しみ。



『旭さん』



あの声を。

あの笑顔を。

失った苦しみ。

苦しい。苦しい。苦しい。

こんどはこの苦しみから逃げ出す為に、

考える事をやめた。

歩みを止めた。

共に歩んできた道を。

俺が止まれば、アイツはどんどん先に行く。

俺の事など忘れてしまうだろう。

ぜんぶ、忘れられればいいのに。

アイツの声も。

アイツの笑顔も。



アイツを好きになったこの気持ちもすべて。



『旭さん』






「・・・西谷」

忘れられれば、いいのに。

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