夢小説【ダイヤのA】

□いつかのメリークリスマス(番外編)
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『いつまでも 手をつないで
られるような気がしていた
何もかもが きらめいて
がむしゃらに 夢を追いかけた』


(倫子さん、この歌が好きだったよな)

3年前のこと。

空港まで、倫子さんを送った帰り道、夜空を仰ぎながら、倫子さんのお気に入りの歌を口ずさんでいた。

世間は、クリスマスだっていうのに俺は、一人きり。
何も、こんな時期にカナダへ旅立つこともないだろうに・・・

俺は、ブツクサ一人言を言いながら、白い息を吐く。

(だいたい、俺の告白だって、ちゃんと聞いてくれたかどうかも、分からない。不安だらけだ)

この時の俺は、半年のリハビリを
終えて、これからという所だった。
これから、倫子さんに告白して、ずっと一緒にいられたらいいのに・・と、思ってた矢先にカナダへ旅立つなんて・・・
俺の考えが甘かった。

始めは、尊敬だった。
それが次第に恋愛に変わっていった。
でも、倫子さんにとって俺は、弟のようなんだろうな。
それでも、一緒にいられるなら、構わなかった。
しかし、カナダは遠すぎる。
いつ戻ってくるかも分からない。

今の俺には、何もかもに自信をなくしていたから、誰かに側にいてほしかった。
一応、連絡先は聞いたけど、倫子さんは忙しくなりそうだし、あまり期待してなかった。
せめて、倫子さんが帰国した時に少しでも成長した姿を見せられたらいいなと、思っていた。

マフラーを顔の半分まで埋めて、またあの歌を口ずさむ。

『君がいなくなることを
はじめて怖いと思った
人を愛するということに
気がついた
いつかのメリークリスマス』

寒空の下、白い息を吐きながら、俺は歌い続けていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


3年後・・・


今年も一人冬の寒空の下で、倫子さんのお気に入りの歌を歌っていた。

倫子さんは、帰国したと思ったら、青道へ行ってしまうし。
もう何を考えてるのか分からない。
でも、3年後の俺の告白は受けてくれた・・・ように見えた。

(このまま信じていて、いいのかな?・・・うん、きっといいに違いない)

と、自分の都合の良いように考えることにした。

秋大会以来、新しいバッテリーの事とか、色々考える事があり過ぎて、今までのままじゃいけないんだと、思っていた。

(俺のせいで負けたようなものだし、我儘を引っ込めないといけない。でも、倫子さんの事は諦めたくないんだよな。我儘な俺だよな・・・)

フッと、笑みをこぼしながら、例の歌を歌う。

『君がいなくなることを
はじめて怖いと思った・・』

すると、後に続いて歌声が聞こえてくる。

『人を愛するということに
気がついた
いつかのメリークリスマス♪』

振り向くと、倫子さんがそこにいた。

「倫子さん⁉︎」

にっこり笑いながら、倫子さんが手をヒラヒラさせながら、こっちに歩いてくる。

「私の好きな歌を歌ってくれて、ありがとうね」

「いや・・・俺も、好きだし・・
ところで、何で倫子さんがここに?稲実の側だよ?」

「鳴くんが、淋しがってると思って♪」

あっけらかんと、言った。
その後、ニヤリと笑って

「毎年、歌ってくれてたとか?」

ギクリ、と、しながら倫子さんから目線を外してしまった。

「相変わらず、照れ屋さんだね」

倫子さんは、優しく笑いながら、
夜空を見上げて言った。

「星が綺麗だね。鳴くんも見てみ?ほら」

言われるがまま、夜空を見上げると・・・
空から白いものが、降ってくる。

「あ!倫子さん、雪です。雪が降ってきました!」

思わず喜んで、倫子さんの方を見る。

「どうりで、寒いと思ったわ。クリスマスに雪なんて、出来すぎで嬉しいわね〜」

けっこう嬉しそうだ。
思わず、倫子さんの手を取ってしまう。
意外に驚いて、俺の方を見つめてる。
ひょっとして、照れてる?

「倫子さん、手を繋いでいい、よね?もう繋いでるけど(笑)」

「繋いでから言わないの。ま、いいけど(笑)」

「じゃあ、恋人繋ぎで失礼します」

「えぇっ‼︎」

真っ赤かになりながら、恥ずかしそうに叫んだ。
でも、外そうとしないから、OKなんだろう。

ギュッと、倫子さんの手を握りながら、会話を続けた。

「倫子さんは、明日は仕事?」

「・・・仕事です。鳴くんは?」

「学校です♪ 終わったら、デートする?」

「何を言ってるの?練習でしょ?
新バッテリーは、上手くいってるの?」

「・・・ははは・・俺が我儘を引っ込めればいいんだろうね」

「なんで?もったいない。鳴くんは鳴くんでしょ?」

思わず、キョトンとする俺に、倫子さんは、畳み掛けるように言葉を紡いだ。
それが、雪降る空の下、延々と続いた。

それが嬉しくて、お説教のような励ましを聞きながら、俺達は恋人繋ぎのまま、夜空の下を歩いていた。


いつまでも手を繋いで
いられるような気がしていた
何もかもがきらめいて
がむしゃらに夢を追いかけた

君がいなくなることを
はじめて怖いと思った
人を愛するということに
気がついた
いつかのメリークリスマス


(終)

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