夢小説【ダイヤのA】

□糸~成宮 鳴の場合~(中編)
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なぜ 生きてゆくのかを
迷った日の跡の ささくれ
夢 追いかけ走って
転んだ日の跡の ささくれ

こんな糸が なんになるの
心 許なくて ふるえてた風の中



3年前に遡る。

中2の夏、野球の試合中に肩と足を痛めた。
仕方なく、俺は医者の勧めるリハビリ病院に嫌々通う羽目になった。
先生のいる部屋に呼ばれた親が出てくるのを廊下で待ちぼうけをしていた。

蝉がけたたましく鳴く。
イライラしながら、ひたすら待つ俺。
限界が近い。

どうやら俺の肩と足は、相当ヤバイらしく、担当医がどうリハビリをしようかと、親に相談してるようだ。
次第に立っているのが辛くなり、廊下にしゃがみ込んでいた。
それはもう、絶望的な顔で。

そんな時、透き通った声が、俺の頭の上から降ってきた。

「そんな所で、どうしたの?」

白衣を着たショートボブの髪型の綺麗な女性が立っていた。

「親が、部屋から出て来るのを待ってる」

「あぁ、なるほど」

チラリと、その白衣を着た女の人が部屋を見て呟いた。

「君、名前は?」

「成宮 鳴・・・」

「成宮くんね。そんな所で、しゃがみ込んでると冷えちゃうよ?」

心配されても虚しいだけだ。
俺は、ふてくされてるように言い放った。

「いいんだ。俺の肩と足は、治らないかもしれないし」

それを聞いてか、女の人は冷静によく通る声で、なおかつ少し低音で叱るように言い放った。

「何を言ってるの⁉︎ バカな事を言うんじゃないわよ。担当医に待たされて、どれ位経つの?」

「・・1時間くらい?」

「何だと⁉︎ あのバカ!
あ、成宮くんは、ここであと少しだけ待っててね」

そう言うなり、凄い形相で扉の戸を叩いた。

「吉田先生?夏目です。入ってよろしいですか?」

と、言って、ズカズカと部屋に入って行ってしまった。

俺は、その勢いに圧倒されて、口をポカンと開けたままだった。

そのすぐ後、扉が開いて、あの女の人が現れて、にこりと笑って言った。

「待たせて悪かったわね。たった今から、成宮くんの担当を任されました夏目 倫子です。よろしくね」

驚きを隠せない俺に、続けて言い放った。

「私になったからには、何が何でも治して、野球の試合に出れるようにするから、リハビリ、覚悟しておいてね♪」

今思えば、あの悪魔のような微笑みの意味に気付くべきだった。
今更、後悔しても、もう遅いけど。
俺は、覚悟を決めていた。
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