創作小説
□地上の星
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1583年12月24日
1日目
『子ども達の為にパンを盗んだ、ジャン・ヴァルジャン。彼は、本当に罪人だったのだろうか?』
今、目の前のパン屋の窓ガラスにしがみついてる少女を見ながら、考えた。
私は今は、中世イタリアのヴァチカンの教会で、神父として働いてる。
私は、馬車に乗るのが嫌で、一人ブラブラと街のパン屋の前まで来てしまった。
パン屋に入りたいが、入りずらい雰囲気。
(どうしたものか・・)
しばらく考えたあげく、少女に悪いと思いながら、入り口の扉に手をかけた。
瞬間。
少女と目が合った。
綺麗な、グリーンの目が印象的だった。
店内に入ると、顔馴染みのパン屋の女将に話しかけられる。
「あら、チェロ神父!また、教会のお勤めを抜け出して来たのかい?」
「抜け出すなんて、失礼ですよ(笑)今日のお勤めは、終了しましたから」
ニッコリ笑って、言い返す。
「ところで、女将。あの子は?」
私は、パン屋の前の窓からこちらを見てる少女のことを尋ねた。
「あぁ、ステラだね。最近、親を亡くして、今じゃ孤児さ。たまに、余ったパンをあげていたら、よく覗きに来るようになってね。チェロ神父も、優しくしてあげておくれよ」
「なるほど、孤児ですか・・
ステラというんですね。
解りました。いや、いじめたりしませんよ(笑)」
いつものように、女将と気さくに話をする。
「じゃあ、このパンとそちらのパン、10個ずつ下さい」
「チェロ神父、そんなに食べるのかい⁉︎」
女将が、目をまん丸にしながら、驚きの声をあげた。
「はい、育ち盛りなんで」
いつもの調子で、サラッと冗談を言った。
チラッと、窓の外を見ながら。
「あぁ、なるほどね」
理由を察した女将は、新作だという、パンも追加してくれた。
「さぁ、沢山食べておくれね!
袋は二つに分けておくよ」
「さすが、女将。ありがとうございます」
礼を言って、私はパン屋の扉を開けた。
ずっと、窓の傍にいたステラに話しかけた。
「こんにちは、ステラ。
私は、神父のチェロと申します。パン屋の女将が、いつも来てくれてる、お礼だとパンを下さいましたよ。さぁ、どうぞ」
そう言って、パンの入った袋を1つステラに渡した。
「えっ?・・でも私、お金ない」
ステラは、突然のことに驚き、パンを受け取るのを躊躇した。
「遠慮はいりませんよ。ステラは、育ち盛りなんだから、沢山食べて下さい、と言ってましたよ」
半ば強引に袋を渡した。
ステラは、おずおずと、パンの入った袋を受け取った。
そして、とても小さな声で
「ありがとう・・」
と、礼を言った。
ニッコリ笑った顔が、天使のように愛らしかった。
つられて私も、ニッコリ満面の笑みを返した。
その時、背後から声がかかった。
「チェロ神父!勝手に出歩かないで下さいよ!捜したじゃないですか‼︎」
いつも、共として着いてくる男が、息を切らして叫んでいた。
「やれやれ、見つかってしまいましたか。解りました、帰りますよ」
ため息をついた後、ステラに向き合った。
「私は、この先のヴァチカンの教会に勤めているので、何か困ったことがあったら、いらっしゃい」
そう言うと、ステラは笑顔で
「チェロ神父さん、ありがと」
ぺこりと、頭を下げると、古びた建物の路地の方へと歩いて行った。
「神父、あの子は?まさか、手を出す気じゃ・・」
「バカを言わない!私を犯罪者にする気ですか?先程、知り合った子ですよ」
私は、ステラの生活が気になったが、この日は泣く泣く別れた。
その小さな天使の後ろ姿が、見えなくなるまで、目が離せなかった。
それが、ステラと出逢った1日目だった。
偶然にも、世間はクリスマスイヴ。
まるで、神が天使を地上に降ろしたかのように、ステラの存在は私の脳裏に焼き付いた。