第二書架(夢)

□心の奥底で
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 別に死にたいなどと思っていたわけではない。だから妖怪に喰われるために森のなかへと入っていったわけではなく、もちろんのこと自殺願望があったというわけでもない。
 そう、言うなれば無意識。僕は何も考えずに森のなかへと入ってしまっていた。

 当然のこと、人里でゆうゆうと暮らしていた僕には森の構造など知る由もなく、現在は太陽も落ち、空にはぽっかりと月が浮かんでいる。
 綺麗な月だな。危機感もなくそう呟いた。冷たい風が肌に突き刺さる。僕はその寒さにどうすることも出来ずに腕をさすった。
 果たして僕は無事に家に帰ることができるのだろうか。

「グルルルル……」

 どうやら無理そうだ。呆れたように僕はため息を吐いた。
 草木をかき分けながら狼のような妖怪が近づいてくる。小腹でも空いたのだろうか。こんな時間だからわからなくもないが、きっとお腹の方は僕のほうが空いているだろう。
 うめき声を上げながらそろりそろりとこちらに向かってくる。
 僕は走った。その瞬間逃がすものかと妖怪もかけ出す。そんな妖怪を走りながら見ることもせずに、なりふり構わず僕は走り続けた。
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