青の騎士と護られ姫

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泣きたい気持ちを言葉に込めて叫べば、口々に罵倒していた女子が黙り、しん…と教室内が静まり返る。


彼女達を睨みつけ、彼女達との距離を自分から詰めれば、反論すると思っていなかったのであろう女生徒達は少したじろいでいた。



「あなた達に何がわかるの!?2学年離れてて、2人は部活ばかりで!あなた達なんかよりずっとずっと会えない日々が続いてても、“幼馴染み”だからって嫌味ばかり言われる気持ちがわかるの!?」


「な、によ…!」


「私が何したの!?徹君が何したの!?ハジメ君が何したの!?なんで私がどれだけ嫌がらせされても2人に言わないと思うの!?2人に余計な心配させない為だよ!嫌な思いさせない為だよ!」



グッと握り締めた拳に力を込めてお腹の底から声を上げる。


ずっとずっと感じていたことやずっとずっと我慢してきた事が溢れ出て止まらなくなってしまった。


女生徒達は怒りや戸惑いを露わにしているが、反論の隙も与えずに口を開く。



「自分のせいで周りが傷ついてる現実を知って傷つくのはあなたや!あなたが!今本気で好きだって言ってる相手本人だってわかってるの!?

私だってあなた達上級生が羨ましいよっ!!

同じ空間に居られる時間が長くて羨ましい!
毎日同じ教室にいられることや、同じ教科を同じ範囲を同じペースで同じ先生に教わっていることですら羨ましい!!」



目に涙が溜まる。

息が苦しい。


それでも言い足りない。


まだ足りない。



「私はどう足掻いたって!!一緒に入学卒業出来なくて!!どう頑張ったって同じ季節を同じ様に過ごすことが出来ないのに!!

私なんかよりよっぽどあなた達の方が2人に会える時間があるのに!!

私に八つ当たりする時間があるならその時間を私に譲ってよ!!!!!」



言い終わってから涙が溢れた事に気づき袖で拭う。


呆気にとられていた女生徒の1人が少し眉を寄せながら前に出てきて睨みつけてきた。


その視線に少し怯えながら逃げたくない一心で目を逸らさず見返すと女生徒は静かに口を開く。



「…そんなに2人が大事なら、なんで岩泉君とだけ2人ででかけたの?…及川君だって呼べば良かったじゃない」

「…そうよ!どうして岩泉君と2人ででかけたのよ!」


「…私は、2人がすごく大事です。…けど、ハジメ君の事が、徹君よりも少し違う特別な存在になったって気づいたからです」



静かに訊いてきた女生徒の言葉に便乗する他の女生徒を無視して彼女だけを見て、彼女だけに答えるように静かに言葉を返す。


その告白の後、岩泉の事が好きなのであろう女子から怒気が伝わり、恐怖からか背中に冷や汗が滲み始めた。



(…でも、負けない)
「私は…ハジメ君が好きです。この気持ちは誰にも負けない。
徹君の事も、彼の事は幼馴染みとしての特別な感情で大切です。
2人それぞれを想う気持ちはこんな数に頼って脅しに来る様な人達には絶対に負けない。

本当に本気でハジメ君が好きなら正々堂々と当たって来れば良いじゃないですか。

私は逃げないし、逃げる理由がないから」



息を思い切り吸い、反感も覚悟の上で教室全員に聴こえるように声を張り上げて告げる。


2人と仲良く過ごし、岩泉が好きで堪らないからこそ堂々と宣言しておきたかった。



「〜〜〜ッ、調子に乗ってんじゃないわよっ!!!!!」


「ッ!?きゃッ…!!」



目の前にいた女生徒が掴みかかって来るのが見え、咄嗟に避けるが髪を掴まれてしまう。


引っ張る訳にもいかずに引かれるまま1〜2歩彼女に近づいた瞬間、耳に聞き慣れない音が聴こえて強く瞑っていた目をハッと開けた。

「え…」

足元には無数の髪が散らばり、見慣れた色と、見慣れた癖毛の毛先。


今朝、岩泉が掬ってくれた左側の髪を触る。


「ウソ…」


腰まであるはずの自分の髪が、胸辺りから触れられない。



髪を切られたと分かった瞬間、目の前が真っ暗になった。
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