青の騎士と護られ姫
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放課後になり、及川と岩泉に部活に遅れるというメールだけ入れて化学実験室へと向かう。
こういう呼び出しに心当たりがありすぎる上に、何度もされてきた行いであり、無視する事ですら面倒に感じていた。
(何も悪いことしてないのに、逃げるみたいで嫌だし…)
「…倉澤莉子です、失礼します」
ガラガラ…と扉を開けて中に入ると、カーテンを閉め切り、電気の付いていない薄暗い教室に上級生と見られる女子が沢山いた。
練習試合の日に見た及川のファンであろう取り巻きの女子を見つけ、やはりこういうことかと溜息をつきそうになったが、角が立つので飲み込む。
「ねぇ、アンタいい加減にしてくれない?」
「岩泉君が狙いなの?それとも及川君なの?」
「及川さんじゃないにしても、周りウロチョロされんのウザいんだよね」
「………」
(まさかの両方のファンからの呼び出し…)
単刀直入から訊かれた2択と口々に浴びせてくる嫌味、罵倒を聞いて珍しい事に2つのグループから一度に呼び出されたことを認識した。
そして少なからずこの状況に焦りを感じる。
ここは化学実験室、校舎の中では人の寄り付かない少し不気味な空間である為、助けが来る事はないだろう。
「アンタ、昨日岩泉君と2人で出かけてたでしょ!?なんなのよホント!幼馴染みだからって出しゃばってんじゃないわよ!」
「私達は本気で岩泉君が好きなの!アナタみたいなのが1番迷惑なのよ!」
「それに!岩泉さんと仲良くしてるのに及川さんにもやたら可愛がられてるしホントになんなの!?」
「とにかく私達はアンタが目障りなのよ!」
(私も、徹君も、ハジメ君も…何も悪いことしてないのに…)
いつもなら、いつも通りなら我慢出来たのかもしれなかった。
けれど、大事な幼馴染みという事実は変えようがない上に、その関係を壊してしまうような感情を自覚してしまった今ではいつも通り、今まで通りの反応が出来ずに拳を握り締める。
「なんとか言いなさいよ!!」
「2人から可愛がられてるからって調子乗ってんじゃないわよ!」
「何も出来ないクセに!ただの幼馴染みでしょ!?」
「…っ!」
“何も出来ないクセに”
この一言が重くて仕方がなかった。
2学年離れている自分は出来ることなど全くと言っていいほどなかったけれど、2人からは沢山守ってもらい、笑わせてもらい、与えられてばかり。
何も出来ない自分がもどかしく、同じ学年、同じ性別ではない自分はいつまでたっても彼らに追いつく事は出来ない。
幼馴染みだと言うのに背中を見続けて必死に追いかけることしか出来ないこの辛さが他の女子にはわからないだろう。
同じ事を同じ時に感じることが殆ど出来ない辛さを味わったことなど殆どないだろう。
そして2学年下の自分が、これからも彼らと同じ目線で、同じ景色を見る事など到底出来ないだろう。
“幼馴染み”でも、2学年も離れると共に出来ない事の方が多い事に彼女達は気づいていないのだろう。
彼女達にとっての“幼馴染み”は、それほど特別に聞こえるのだろう、感じるのだろう。
わかっている。
わかっているけれど。
「あなた達に私の何がわかって何を知っててそんな事言うのっ!!??」
長年溜めてきた気持ちが爆発してしまった。