青の騎士と護られ姫
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-莉子side-
「「よろしくお願いします!!」」
挨拶をして、ベンチに座る。
今日は6月4日、IH予選最終日。
この3日間は長い様であっという間だったなと、今目の前で始められた試合を見て漠然と感じていた。
青葉城西高校 対 白鳥沢学園
及川と岩泉の目標である相手が今コートを挟んで目の前にいるのだから、やる気が出ない訳がない。
1試合1試合、とても長く感じながらも思い返せば4月からあっという間で、今日この試合に負けてしまうと、臨時マネージャーも終わるのだと思えば寂しくて俯いてしまいそうだった。
(ダメダメ、せっかくここまで来たんだから!)
「…勝つって、言ってたもんね…!」
「ッしゃアアアァ!!!!」
「岩ちゃんナイスキー!!」
ふるふると頭を振って雑念を飛ばし、顔を上げれば岩泉がスパイクを決める所だった。
調子が良いと言っていただけあり、その威力は見ているだけで腕を摩りたくなる様な音を立てている。
いつも通りのバレーをしているはずが、何故か白鳥沢との点差が縮まらず、入畑がタイムアウトをとった。
「焦るなよ、まだ始まったばかりだ」
「「ハイ!!!」」
「ハジメ君、気合い入ってるね〜!」
「おーよ、当たり前だろうが!…莉子、ちゃんと見とけよ?ガンガン決めっからな」
入畑がタイムアウトに入ってすぐ優しく声をかけ、いつも通りメンバーだけでの作戦会議が始まる。
話が終わるタイミングで少し勇気を出して岩泉の隣へ行けば、爽やかな笑顔を向けられて心臓が跳ねた。
「ぅ…うん、ちゃんと、見とくっ!」
「ンだよ、変な話し方して。体調悪いならちゃんと言えよ?莉子?」
「あ、うん、大丈夫〜!ちょっと緊張してて〜!」
(さっきの、私の為に決めるって言われてるみたいとか思った私は重症だなぁ…)
昨日の試合の後、疲れているだろうからとロクな会話もメールや電話も何もせずにただただ今日を迎えた。
今日の事を思い、気を遣って岩泉とあまり会話をしなかったからか、向けられた言葉と笑顔にドキドキと意識してしまう。
ボトルを受け取ればそのまま頭を撫でられ、受け取ったボトルを抱きしめながら、この1ヶ月半もの間続けてきた様に岩泉の背中を見送った。
*****
試合はどう願っても終わってしまう、そんな事は分かりきったことであり、仕方のない事だった。
それでも、25-22で1セット目を獲られた分、焦りとなって祈るように見つめていた。
「…ハジメ君…」
「…やっぱ強いですね、白鳥沢は」
「ああ…そうだな…」
金田一が決めたスパイクで白鳥沢24-23青葉城西となる。
強敵が相手になれば、受けるスパイクの強さや、動きの速さで体力の消耗が激しくなる為か、選手は昨日以上に汗をかいていた。
「ライトライト!!1番!!」
「あっ…!!」
岩泉のブロックの上から打たれたスパイクは、金田一の腕をかすめズドンッと重い音を立ててコートへと叩きつけられた。
そしてその後すぐに、青葉城西の敗北を告げる試合終了の笛が鳴り、目頭が熱くなる。
コートに数秒立ち尽くし、整列をして、応援席に挨拶をして、ベンチに帰ってくるその瞬間まで、悔しさに歪んだ選手の顔を見つめていた。
「…お疲れ」
「…よく頑張ったな」
(泣いちゃダメ…泣いちゃダメ…)
「…おかえり、皆、カッコよかった」
俯きながら涙を隠す部員や、必死に泣くのを堪える部員、ただただ悔しさに耐える部員、全員を見て、できるだけ笑顔でタオルを差し出す。
負けたのだから辛くて、苦しいという現実が目の前にあるというのに、それ以上の言葉も思い浮かばず、何も出来ない自分に腹が立った。