青の騎士と護られ姫

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-岩泉side-



莉子の事しか考えられない状況で、“廊下を走るな”などの決まり文句は聞いていられない。


バタバタと走る3人を周りが驚きながら見ていることにも気付かずに保健室を一直線に目指した。



「「莉子っ!!!」」
「莉子ちゃんっ!!」



勢いよく扉を開いて名前を呼ぶと、振り返った莉子は大きく目を見開いて固まっている。


“無事だ”と思った瞬間、髪が短くなり、左腕に包帯を巻いた莉子の姿に言葉を失ってしまった。



「莉子ちゃんなにその怪我っ!?どうしたの!?」

「莉子?髪までどうしたの?説明して!!」


「あ、うん…待って、順番に話
「…何してんだよ、お前ッ!!!!」



朝には切るか切らないかで迷っていた髪が、気に入っていた毛先のくせ毛が、サラサラの長い髪が、胸辺りまでバッサリとなくなっている。


不本意に切られただろう本人である莉子は困った様子ではあるが笑顔を見せていた。


(どうして言わなかった?なんで気づかなかった?なんで守ってやれなかった!?)


いつの間にか拳を握りしめ、自己嫌悪や何も言わなかった莉子への怒りで怒鳴ってしまっていた。



*****



それから莉子は昼休みに放課後の呼び出しをされ、いつも通りの呼び出しだと思って行ったと説明し始める。


“自分は何もしていないのに言いがかりをつけられるのはおかしい”と我慢出来ずに口答えをしてしまったらしい。


そして逆上した相手に髪を切られ、麻里が助けに来て動揺してハサミを振りかざした女生徒を見て、咄嗟に動いて怪我をした、と。



少人数ではなく、大人数で囲まれた上にハサミまで持ち出されて怖かっただろう。


ポツポツと話す莉子の内容に、自分だけでなく及川の眉間のシワも深くなっていた。


「…そういえば、麻里先輩はどうしてあそこに〜?」


話し終えてパッと麻里を振り返った莉子の顔はいつも通りを努めて作っている顔で、痛々しくもあり、守れなかった罪悪感を抉ってくる。


麻里は自分がいた説明を始め、真奈との話を結びつけてこちら側の動きも理解した上で、莉子との信頼関係に疑問をもっていた。



「…ごめんね、皆…」

「莉子ちゃん…痛い?髪も…可哀想に…」


「なんで徹君がそんなに泣きそうなの〜?平気だよ、大丈夫〜」


(そんな状態で笑ってんじゃねーよ)



椅子に座りながら頭を下げて謝る莉子の頭を及川が撫でて心配そうに話しかける。


笑えてない笑顔は“迷惑をかけたくない”と思っているからだろう。


それでもやはり、確かめておきたい、言わなければいけない、甘やかすだけじゃなく誰かがちゃんと言っておかないと莉子はきっとまた同じ事を繰り返すと感じた。



「何で何も考えずにノコノコ行った!!何で言わねぇんだよ!!!!!」
(俺への信頼はそんなもんなのか)


「…ごめんね、でも…部活の邪魔になるから…」


「こうやって問題が起きたら迷惑になるとは考えなかったのか!?」
(俺が、お前より部活が大事だと思ってるとか思ってんのか)


「…それ、は…」

「岩ちゃん!言い過ぎだって!!」



ずっと後ろで聴いていた体は莉子へ詰め寄る様に近づき、胸ぐらを掴みそうになるのを必死に抑えつつも怒鳴りつける。


ビクッと肩を竦め、恐る恐る見上げてくる瞳には涙が溜まり、それを見た及川が慌てて間に入ってきた。


莉子を怒鳴りつけたのは初めてで、いつも泣き止ます役をしていた自分にとって、泣かせてしまった莉子の顔が見れずに背中を向ける。



「…お前、今日はもういい。帰れ」
(ケガしてりゃ痛いだろうしな…)


「え、でも、部活
「今日はいいっつってんだよ!帰れ!!…及川、練習戻るぞ」


「ちょっと岩ちゃん!!」



振り返ることも出来ず、及川に声をかけて保健室を出る。


及川の制止の声もちゃんと聞こえていたが、今は莉子の顔も、短くなった髪も、包帯を巻いた痛々しい腕も、何もかも見たくなかった。


「…アホか、俺は…」
(言わねぇとわかんねー奴だけど、泣かしてどうすんだ…)


莉子の優しさとはいえ、何も言ってもらえなかった悔しさは守れなかった傷を抉り、何も気付けなかった自分の能天気さは自己嫌悪となって新たな傷を作る。


声をかけたはずの及川はすぐには追いついてこないが、待っていることも出来ずに体育館を目指した。
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