青の騎士と護られ姫

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次の日の朝練、岩泉と会うと昨日の事を思い出して顔がにやけそうになり、引き締める事に必死になっていた。


朝から汗を流すレギュラーにタオルを渡していると花巻からジーっと見られて首を傾げる。



「…なぁ、莉子姫って髪切らねーの?伸ばしてんの?」


「えっ、姫!?え、と、…特に理由はないですけど〜…美容院に行くタイミングがなくて〜」
(何で姫ってついてるの…?)


「えっ!?莉子ちゃん髪切っちゃうの!?」

「うーん、これから暑くなるし、少し切ろうかな〜」



ポニーテールにした髪を一房掬い、どの辺りまで切ろうかという話になる。


腰まで伸びた髪は洗うのも乾かすのも手入れも大変だと思っていた為、花巻に話を振られて真剣に美容院を考え始めた。



「ショートはヤダ!!せめて鎖骨辺りにして!莉子ちゃん!!!!」


「なんでそんなに必死なの〜?怖いから近寄らないで〜?」


「莉子ちゃん笑顔が怖いよ!!!??」



人の髪型の事でこんなに必死になる及川の勢いに驚きつつもいつもの様な返事をすると及川はさっと岩泉の後ろへと隠れながら喚いた。


迷惑そうに眉を寄せた岩泉が及川を引き剥がすと余計に喚いた及川を黙らせてから傍まで歩いてくる。


「…ちゃんと手入れしてんのが俺でも分かるくらいなのに、なんか勿体ねーな」

「…っ!!!」


一房持っていた髪を岩泉が取り上げ、ジッと掬い上げた髪を見つめ、いつも通りのトーンで告げる。


普段通りだったのは岩泉だけであり、周りは岩泉の大胆な行動とその天然さに固まり、自分に至っては隠しきれないほど顔が真っ赤に染まった。



「岩泉ってたまに大胆すぎるだろ…」

「天然って怖い」

「いいいい岩ちゃん!?岩ちゃんっ!!??」


「あ?」


「ハジメ君〜…あの…嬉しい、けど…!かなり…恥ずかしい…です…!!」


「え?…うぉあッ!?いや、あの、これは、そのっ!!」



何も分かっていない岩泉に顔を真っ赤に染めたままたどたどしく伝えると、岩泉の動きが止まる。


周りを見回し、3年の顔を1人ずつ見てから自分の手元を見て目が合い、それから意味を理解したのかいきなり顔を真っ赤に染めて髪から手を離した。



「岩泉…お前ってヤツは…」

「ちげーよ!俺は思ったこと言っただけで!」

「岩ちゃんのスーケーベー!」

「お前にだけは言われたくねえ!!!!」


(切るの…もうちょっと先にしようかなぁ…)



ギャーギャーと騒ぎ出す部員を輪の外から眺め、岩泉が掬い上げた髪をキュッと握り、嬉しさに顔を緩めた。



*****



昼休みに上級生から呼び出され、及川絡みかなと溜息をつきながら廊下に出る。


及川のファンは大体1〜2年生、岩泉のファンもしくは岩泉を好きな女子は大体3年生。


一緒にいれば年々バレる及川の性格と、年々浮き彫りになる岩泉の面倒見の良さに、中学でもそんな風に変わっていっていたなと考えていた。



「ねえ、あなた岩泉さんと付き合ってるの?」


「いえ、幼馴染みの関係のままですけど…」
(さん?ってことは1年生か2年生?)


「ふーん…。放課後、話があるからすぐに化学実験室に来てって伝言だから!じゃあね」


「え…あの、誰から…!?」
(…って、行っちゃった…)



急に話題を振られて驚きつつも返事をすると、上から下までジロジロと見られた後用件を伝えてその人達は去っていく。


今までにない嫌がらせとも言えないような感じが不思議で眉を寄せながら去っていく背中を見送った。



(徹君絡みって感じでもないような気もするしそうでない気もするし…)


「莉子、大丈夫だった?」


「うん、ハジメ君との関係訊かれただけだった〜」
(呼び出された事は…言わない方が良いよね…?)


「ねぇ、岩泉さんってさー、莉子に甘いよね?」

「え?ううん、ハジメ君はなんだかんだ皆に優しいの〜」

「皆に優しくて、莉子に甘いんでしょ?」



席に戻ると心配してくれる真奈に笑顔で何でもないことを伝えると、少し様子を見ながらも納得してくれた。


真奈に朝から昨日の遊びに行った話と、今朝の話をしていたからか、真奈はニヤニヤとしながら話をしてくる。


頭の中で先ほどの呼び出しの話が引っかかっていたが、昨日の話をされると楽しかった記憶が脳裏に浮かび、引っかかりなど忘れて顔がにやけて真奈に惚気ていた。
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