青の騎士と護られ姫
□7
9ページ/9ページ
シアターには人がまばらで、平日でこんなものかと思ったが、指定された席に着いて莉子にポップコーンとジュースを渡す。
キョトンと自分の目の前に置かれた物を見てからクスクスと笑いだす莉子に驚き、そのまま眉を寄せた。
「なんだよ」
(似合わねーとか思ってんだろ)
「ハジメ君は本当に優しいなぁって思ってたの〜!お金いくらだった〜?払わなきゃ」
「いらねー。お前に払わすくらいなら及川からぶん取る」
「じゃあ映画の後カフェ行こう〜?そこのお金は払うね〜」
「…頑固か」
(さり気なく話持って行きやがって)
いつの間にか緊張していた空気も薄れ、いつも通りのやりとりに安心しているとニッコリと笑って提案をしてきた莉子の言葉の中に“お金を払わせたままにしない”という意味が込められていると察する。
莉子の額を小突きながら苦笑すると小突いた所に手を当てて「約束ね」と笑う莉子に「はいはい」と頷いておいた。
*****
映画は思ったよりもアクションが激しく、主人公の立ち回りは勿論、相手役やモブ達の技や飛ばされ方も凝っていて魅入るものがあった。
「あの相手を吹っ飛ばした時は思わず立ち上がりそうになったな!」
「あはは!声には出てたよ〜!『よっしゃ!』って聴こえてきて笑っちゃいそうだった〜」
「うっ…マジか…!!」
(2歳も下の幼馴染みに聴かれるって恥ずいな…)
映画を見終わってから約束のカフェに移動して、莉子は悩みながらいつも通りのフルーツタルトと紅茶を頼む。
カフェオレを頼みながらも映画の話を続けていると、楽しそうに頷いていた莉子がまたクスクスと笑い、顔に熱が集まるのを自覚しながら眉を寄せた。
「何笑ってんだよ!仕方ねーだろ!すげー面白かったんだから」
「バカにしたんじゃないよ〜?ハジメ君が楽しそうで良かったなーって思ったの〜!」
(…!?またこいつはこういう事を平気で言う!!)
「…お前な…!そういうのは、その…なんだ…あーもーいい!」
ムスッと見ると否定しながら笑う莉子の顔と言葉に一気に心臓が苦しくなる感覚を覚える。
莉子は優しく、そして恐ろしく天然であり、喜ぶ事を言ったりしても自覚がないのだ。
“そういう事は好きなやつだけにしろ”
そう言うつもりだった言葉は何故か最後まで言えずに飲み込み、カフェオレを飲んで気持ちを落ち着かせる。
ジッと見つめてくる莉子の視線に耐えられず、何か話題はないかと思考を巡らせた。
「それ食ったら帰るか。家まで送る」
「うん!あ、でも送らなくていいよ〜?」
「バカ。1人で帰すわけねーだろ」
「…!うん、ありがとう〜!」
散々話した後、莉子が食べているケーキを見てそう口にすると頷いて反応する。
気を遣って“送らなくていい”と言う莉子は相変わらずで、当然の様に否定すると嬉しそうに笑った。
(まだちょっと暗いな)
店から出て時計を見るが、そんなに遅くはない時間でもやはりまだまだ暗い。
家に連絡を入れて莉子にも入れさせてから、ゆっくりとした歩調で家まで送り届け、いつも通りの挨拶で手を挙げた。
「じゃ、また明日な」
「うん、ハジメ君も帰り気をつけてね〜?」
「誰に言ってんだよ」
(毎回聞いてるっつの)
「わっ!」
毎回同じ様なやり取りをこうやって笑って出来ることに思わず笑みがこぼれ、莉子の額をコツンと小突いたあと、照れ隠しにわしゃわしゃと頭を撫でる。
「もー!」と言いながら乱れた髪を直して見上げてくる莉子に笑って背を向けた。
『服、変だった…?』
そう言った時の悲しそうな莉子の顔を思い出し、自然と足は止まって体は振り向いていた。
(…今なら、言えっかも)
“どうしたの?”と言う様な顔で首を傾げる莉子に、グッと拳に力を込めて口を開く。
(言え、言え!)
「…あー…お前の今日の服、似合ってんぞ」
今日、1番言いたかった言葉を言い終わると顔が一気に熱くなり視線をそらす。
チラリと見た莉子は目を見開いて固まり、驚き過ぎて反応も何も出来ない状態だった。
その場にとどまるのも気まずく、慌てて莉子に背を向けて家への道を歩き、煩く鳴る心臓の音を意識して更に顔が熱くなった。