青の騎士と護られ姫
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バスを降りてからどこのスポーツショップに行くつもりだったのかと聞くと「大きなショッピングモールに行けばあると思った」と抜けた答えが返ってきた。
ついてきて正解だったなと思いつつ、スポーツショップへと案内してドリンクが並んでいる棚へ行くとケータイを見ながらドリンクを手に取る。
2袋を両手に抱えてボトルを見たりする莉子の傍にカゴを持って行き、ドリンクの袋をカゴに入れて、自分の買い物を済ませた。
(周りが見えなくなる所は及川とそっくりだな)
「あ…ありがとう〜」
「ボトルは俺のを貸してやるから買わなくていいぞ」
「えっ、いいの〜?困らない?」
放っておくと悩んだ末に全てを買い揃えてしまうだろう莉子に余計な買い物をさせない様、すぐにレジへと向かう。
慌てて追いかけてくる莉子が追いつく前にレジにカゴを置き、財布を取り出すと莉子がすかさずトレーにお金を置いた。
「あ"!!おい!」
「絶対出そうとしてたでしょ〜!?ダメだからね〜!」
(クソ、バレてる…!!)
「〜〜〜っ…お前なぁ…」
「いいの〜!出すの〜!」
(良くねぇよ!この頑固者が)
眉を寄せて莉子を見てもプイッと顔を背けて聞く耳を持ちそうにない。
頑固な莉子はお金を引っ込めないだろうと「自分の分は払う」と言ってお金を差し出すがジッと見上げてくる視線に耐え切れずにお金を押し付けた。
「俺のもんをお前に払わせる訳ねーだろ?受け取っとけ!」
「…ハジメ君の頑固者〜…」
「そりゃお互い様だろ」
(つーかお前の方が頑固だ。…拗ねるから言わねーけど)
渋々お金を受け取った莉子がちゃんとお金を仕舞うところを見てから荷物を持って歩き出すと、莉子はその少し後ろをついてくる。
昔から、莉子は少し後ろついてくる癖があり、そこが可愛くてけれど居なくならないか不安で何度も振り返っていた記憶を思い出した。
(歩調を合わせて隣を歩かないと不安だったな…)
「ハジメ君って、優しいよね〜」
「はぁ!?んだよ、急に…!!」
(ビビった…!)
「なんでもな〜い」
後ろばかりを歩いていた莉子が急に隣に追いついて顔を覗き込んできたその動作に何故かドキッとして顔に熱が集中する。
昔と変わらない事が沢山あっても、昔と違う部分だって少なからずあるのだと実感すると、嬉しい様な寂しい様な不思議な気分になった。
*****
スポーツショップを出ると、時間はそんなに遅くはないがやはりまだ暗くなるのは早く、1人で帰す訳にはいかない。
莉子といる日は必ず家まで送り届け、長い間それが当たり前だった為、「1人で帰れる」と言う莉子を黙らせて家まで送っていた。
「ありがとう〜、家まで送ってくれて」
「いつもの事だ、気にすんな。…じゃ、また明日な」
「あ、荷物〜!預かるよ〜、重いし、元々私が買ったんだし」
家まで送るとニッコリと見上げて毎回のごとく律儀にお礼を言う莉子にニッと笑って頭をわしゃわしゃと撫でる。
この少し和んだ時間が実は好きだったりするが、明日も朝から練習に出ると言う莉子を引き留めておく訳にもいかない。
無駄話などせずに帰ろうと背中を向けると慌てて声を掛けてくるその内容に呆れてしまった。
(コイツは…人のことばっかだな…)
「…お前に朝からこんな重いもん持たせて学校に行かせる訳ねーだろ。ボトルも明日渡すから今日は休めよ?…じゃあな」
「ありがとう〜!じゃあ、また明日ね〜!」
「おー。…さっさと家入れよ、もう暗いんだからな」
「はーい」
(家、入んねーの知ってるけど)
首だけで莉子を振り返って答え、今度こそ帰る為に歩き出す。
“家に入れ”と言うとニコッと笑ってと返事をするが、莉子は絶対に見送り終わるまで家に入らない事は知っていた。
どうせ入る気のない莉子に何を言っても無駄だろうと溜息をつき、挨拶代わりに片手を挙げて少し歩調を早めて歩く。
「やっぱ高校生になると女は違うな…」
(ずっと子供のままでいて欲しいってのは、ムリか…)
誰もいない閑静な住宅街を歩きながら、ここ最近の莉子を思い出してポツリと零す。
昔から“可愛い”と思いつつも及川と違って口に出せない自分は行動で示すしかなかった。
妹であり、お姫様的存在の莉子が大人になればなるほど魅力を増して周りの気を惹く。
本人は自覚していないだろうが、及川のファンからはかなり疎まれ、男子からはかなり好意を寄せられているだろう。
「…高校最後の1年が、1番大変な事になりそうだな…」
少し大袈裟に溜息をつき、歩調を緩めずに家へと向かった。