青の騎士と護られ姫
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挨拶を終えて練習の為に体育館へ戻って来ると、ボールを持って佇む莉子の後ろ姿を入り口前で見つける。
表情は見えていないが、少し寂しそうなその姿に少し心配になり足早に近付いた。
「莉子?」
「わっ!は、ハジメ君…!?」
(こんなとこにいたらまた及川が…ん?)
「あれ、及川は?」
「知らないよ〜?私が来た時には居なかったから〜」
ビクッと肩が跳ね上げて振り向いた莉子を不思議に思いながら、扉の所に立っていれば必ず見つけて騒いだであろう及川の姿がない。
及川が練習をサボる訳がない、だからこそ居なくても別に「そのうち帰ってくるか」と莉子の返事を聞いて自分の中で完結させた。
「今日、見に来いとか言っといて良いとこ無かったからマジでカッコつかねー」
(まさか負けると思ってなかったし)
「そんな事ないよ〜?カッコ良かったよ〜!」
「お世辞はいらねーよ。…でもま、俺も収穫あったけど」
ニコッと笑う莉子を見下ろし、そのままキョトンとした表情に変えて首を傾げて見上げてくる莉子に笑って頭に手を置いた。
(困ってたり悩んでたりすれば当然の様に手を伸ばすとこは相変わらずだったってこととか)
「…ま、お前らしいか」
「ね、収穫ってなーにー?」
口に出さずに練習へ戻ろうとすると莉子は後を追いかけてきてクイッとジャージの裾を引っ張ってくる。
その動作についつい頬が緩みながら莉子を振り返って少し言うか言わないかを迷い、言葉を選びながら口を開いた。
「あ?あー…お前、金田一の様子が変なの分かって追いかけたろ?」
「えっ…!なんで分かったの〜!?」
「俺も、金田一が変だなーと思ってたらお前が泣きそうな顔で出て行ったから、そうだろうなと思ったんだよ」
(表情、分かりやすかったしな)
首の後ろを掻いて少しの照れを誤魔化しながら、思ったこと、感じたことを素直に話す。
驚いた表情で大人しく聞く莉子を見て、きっと背中を押すだろうと分かっていても、言わずにはいられない事があった。
「お前、ちゃんと様子も見れる奴だし、嫌な奴でもねーし。…向いてると思うぞ、マネージャー」
そう言って笑うと「邪魔じゃないか」と言われて驚きながらも否定し、必死な莉子に苦笑して頭をわしゃわしゃと撫でる。
てっきり「髪がグシャグシャになる!」と反論してくるかと思ったが、珍しくただ撫でられている莉子を不思議に思った。
「あー!!!岩ちゃんっ!?莉子ちゃんとイチャつかないで!!!」
(やっと帰ってきやがった!!)
「うるせぇクソ及川!お前どこ行ってたんだよ!」
「ちょっと烏野に挨拶に行ってただけだって〜!ホラ、俺最初いなくて挨拶できなかったから!」
楽しそうに話す及川が何をしたのかなんて容易に想像でき、2人して思い切りため息をつく。
あからさまなその態度になんの興味も示さず、及川はニコニコと莉子へ笑顔を向け、マネージャーをやるかやらないかを訊いていた。
「なに、莉子姫マネなんの?」
「姫って言うな。…莉子がマネージャーやんのは良いけど、及川がうぜーのが腹立つ」
「あー…想像できるわ、それ」
「やったーーーー!岩ちゃーーーん!」
“噂をすれば”と笑う花巻と松川にため息をつき、表情筋が全く働かない事を認識しながら足元に転がるボールを拾う。
両手を広げて走ってきた及川に投げつけるか考えてから、ただただ無表情で及川を見た。
「おー。よかったな」
「なんで棒読みなの!もっと一緒に喜んでよ!」
「うるせえ!!テメー使いもんになんねえんだからボール拾いくらいしやがれグズ及川!!!」
「暴言!!暴言だよ!!!!」
言い合いをしながらも、及川越しに見える莉子と金田一、国見の3人で話して楽しそうに笑っている姿を見て安心する。
無事に莉子をマネージャーにすることも出来て肩の荷が下りたのか、一気に体が軽くなった気がした。