青の騎士と護られ姫
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少しの間固まった後、慌てて口を開いた。
「は!?いや、お前、なにを…」
(話って、この話かよ!?)
『ちゃんと答えて?幼馴染みじゃなくて、恋愛感情で好きなんだよね?』
「は…れ、れんあいかんじょ…!?」
ケータイの向こうから、いつものテンションの及川が珍しい事を訊いてくる。
“恋愛感情”
そんな事は考えたこともなかった。
『莉子ちゃんの事、幼馴染みとしてただ守ってあげたいって思ってたんだと思うんだよね〜、岩ちゃんの事だし』
「…おう、まあ、そうだな…」
『でもさ、そろそろ気づいて、認めても良いと思うんだよね、俺は』
「おい、何言って…」
(なんでお前が俺の気持ちを勝手に…)
いつもの及川のテンションだが、いつもの及川とは違う、そう感じるには十分な雰囲気だった。
及川に言葉を返そうとした瞬間、及川は『じゃないと、俺が持ってっちゃうからね、莉子ちゃんのこと』と言って一方的に通話を終了させ、画面を見つめる。
及川が莉子を好きな事には気づいていたが、それが恋愛感情だとは考えていなかった。
同じ“可愛い幼馴染み”として可愛がっていると思っていたし、だからこそ過保護なまでに世話を焼いていたのだとずっと思っていた。
(…及川が、莉子を好きなら丁度良いじゃねーか)
「莉子も、及川のこと、なんだかんだ気に入ってるし」
(仲も良い、何より態度が他の誰とも違う)
そこまで自分で自己完結させてから3人で遊んだ日のことを思い出す。
2人で仲良くクレープを頼んでいるところを見たときも、落書きをしている時も、その様子を見てモヤモヤしていた。
学校でも部活でも、特別なやり取りをする2人をどこか遠い存在として見ている所があった。
高校に上がってきた莉子を見て、さらに可愛くなったと感じたあの感情も…
「…莉子に、惚れたからか…?」
及川との通話が終わり、暗くなったケータイには、酷く困惑した自分が映っていた。
*****
それからは気持ちを確かめる為に少しずつだが莉子と話すようにしていた。
自分から声をかける事はほとんど無いが、莉子から声をかけられた時には少しだけ話すように心がける。
それでも前の様には上手く話せずに日は過ぎ、話すようにしているはずが話せていない現実に段々と疑問を抱いた。
(あ、やべ…これ渡しとかねーと…)
「莉子…あー…これ、監と
「莉子ちゃーん!あ、岩ちゃんまだこれ渡してなかったの?莉子ちゃんこれ監督に渡しておいて!」
「………」
(またか…こいつ…)
最近、莉子に話しかけたり、莉子から話しかけられて話している途中に及川が乱入してくる事が多い気がする。
及川が乱入し、自分が立ち去った後は莉子と及川が2人で話す、それを遠巻きに見る自分がいてイライラとし始めた。
「おい、及川。どういうつもりだ」
「何が〜?」
「わざわざ間に入ってくんのは意味があってやってんだろうな?勿論」
「うん、意味ならあるよ?莉子ちゃんに岩ちゃんを近づけさせない為!」
「お前…!」
眉を寄せて及川を見ると、ヘラヘラとした及川が少しだけ挑発的な顔をする。
ギロリと睨むと挑発的な顔のままニッと笑いながら見据えてきた。
「あれからずっと様子見てたけど、まだ答え出てないんでしょ?だったら俺が邪魔したって良くない?俺は莉子ちゃんが好きだから、誰にもとられたくないし?例え、岩ちゃんでも」
「…ッ、ホント…お前腹立つわ…」
(全部お見通しの上でやってたのかよ!)
「どうも!でもバレーには関係ないからね!意地悪なトス上げたりしないから安心してよ!」
ニッコリ笑った及川に腹を立てながらスパイク練習に入る。
及川はその言葉の通り、意地の悪いトスもなく完璧なトスを上げてくるが、肝心のスパイクがブレてしまっていた。
1本打つたびに「チッ…」と舌打ちをすれば、及川が「どんまい、次次!」と普段通りに声をかけてくる。
(誰のせいだと思ってんだよ、このクソが)
「ねぇ…徹君〜、ハジメ君も…なんであんなにギクシャクしてるの…?」
イライラとする所に心配そうな莉子が話しかけてくる。
これがまた事件の始まりだった。