青の騎士と護られ姫
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バスを降り、岩泉の案内でスポーツショップのドリンクが並ぶ棚へと行き使った分と、自分の練習用のドリンクを手に取る。
1袋で足りるだろうかと考えていると手に持っていた袋が消え、昼間のデジャヴで岩泉を見ると岩泉はいつの間にかカゴを持ち、その中に袋を入れていた。
「あ…ありがとう〜」
(ハジメ君てばホントにやる事が男前〜…!)
「ボトルは俺のを貸してやるから買わなくていいぞ」
「えっ、いいの〜?困らない?」
(何で全部分かっちゃうんだろ〜…)
さっさと目当てのテーピングやサポーターをカゴに入れて歩いていく岩泉を慌てて追いかけながら会話をする。
このままでは支払いまでさせてしまいそうだった為、岩泉がレジにカゴを置いたその瞬間に財布から一万円札を2枚トレーに置いた。
「あ"!!おい!」
「絶対出そうとしてたでしょ〜!?ダメだからね〜!」
「〜〜〜っ…お前なぁ…」
「いいの〜!出すの〜!」
渋い顔をする岩泉からプイッと顔を背けると、財布から5千円札を出して手渡してくる。
「自分の分は払う」と言う岩泉の顔をまじまじと見ているとまたムスッとした顔で5千円札を押し付けてきた。
「俺のもんをお前に払わせる訳ねーだろ?受け取っとけ!」
「…ハジメ君の頑固者〜…」
「そりゃお互い様だろ」
岩泉の5千円札と会計のお釣りを受け取ると、岩泉が買った荷物を持って歩き出し、その少し後ろを歩く。
幼い頃より大きくなった広い背中を見ていると嬉しさと懐かしさで顔が緩んだ。
「ハジメ君って、優しいよね〜」
「はぁ!?んだよ、急に…!!」
「なんでもな〜い」
岩泉の隣に追いつき、顔を覗き込みながら言うと岩泉は顔を真っ赤にして反応する。
及川とは違って裏表のない岩泉は信頼できる頼もしいお兄ちゃんだなと心底感じた。
*****
岩泉は重い荷物を持ち、遅くなったからと家まできちんと送り届けてくれる。
及川も岩泉も、昔から一緒に遊んだ日や、たまたま会った日には1人で帰す様な事はしなかった。
“幼馴染み”という少し特別な枠の中の“妹”というポジションは今も変わらないらしい。
「ありがとう〜、家まで送ってくれて」
「いつもの事だ、気にすんな。…じゃ、また明日な」
「あ、荷物〜!預かるよ、重いし、元々私が買ったんだし」
「…お前に朝からこんな重いもん持たせて学校に行かせる訳ねーだろ。ボトルも明日渡すから今日は休めよ?…じゃあな」
家の前まで来てニッコリと見上げると、ニッと笑って頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
無駄話もせずにさっさと帰ろうとする岩泉の手元を見て慌てて声を掛けるが、今度は呆れた様な顔で当然の様に甘やかす言葉が返ってきた。
(…種類は違うけど、平気で言っちゃうところは徹君と一緒だなぁ…)
「ありがとう〜!じゃあ、また明日ね〜!」
「おー。…さっさと家入れよ、もう暗いんだからな」
「はーい」
ニコニコと返事をするが、岩泉が見えなくなるまで手を振って見送る。
岩泉や及川は“家に入れ”と昔から言うがここは誰にも譲らない自分の見送り方だった。
それを知っている岩泉は溜息をつくだけで何も言わず、片手を挙げて応えながら帰っていく。
(明日、またちゃんとお礼言わなきゃ)
「ハジメ君、だんだん徹君に似てきたなぁ…無意識に女の子を喜ばせるところが〜」
去っていく岩泉の背中を苦笑しながら見送りつつ、思ったことが口からこぼれた。