長編

□抱く
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沖田は目覚めると
腕の中の温もりを掻き寄せた


彼女がいると安心する
こんな想いは初めてで
どうしていいのか
自分でもわからない



ただ言えることは一つ
彼女がこの世界に留まるようにと
願いを込めながら


「ずっとここにいて」


ぽつり呟いた言葉に
まだ眠っている名無しさんに
届くことはなかった


今だ目覚めない彼女を訝しげに思い
やはり怪我をしていないかと
夕べより丁寧に躰を触る


「ん。。。」

「あ、起きた?
名無しさん痛いところはない?」


切なげな眼差しで彼女に問うと
微笑しながら「ないよ」と返事が
返ってきた


「起きれる?夕べの話を
詳しく聞きたいんだけど」

「山南さんは?」

「わからない
僕はずっと君といたから」

「そっか。土方さんにもちゃんと説明しなきゃね」


彼女は鍛えてるわけでもない
普通の人で昨日の衝撃で打った躰は
むくりと起き上がると
キシキシと痛んだ


「あ。。寝巻き。。」

「うん 僕が着せたの。だめだった?」


悪戯に笑う沖田がすっと腕を伸ばし
彼女を立ち上がらせた


「じゃあ居間に行くなら
着替えよっか?」


ニヤニヤと笑みを浮かべる沖田に
きっぱりと言ってのけた


「いや自分で着るし。総司出てって」

「連れないな〜
もっと甘えてくれていいのに
じゃあ僕も隣で着替えてくるから迎えに行くね」



名残り押しそうに離れる手に
彼女は微笑んだ


その眼差しに
切なげな色があることを
沖田は見逃さなかった





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