長編

□紅
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山南が静かにその場を去ったのを
見計らうかの様に
沖田は彼女の前に
姿を表した。


「羅刹は寿命を縮める。ね」

「総司。聞いてたんだ」


沖田は
そっと彼女の手を握ると
その手を自分の口元に寄せた。


「君の知っている僕は
もしかして羅刹になってた?」

「さぁね。」

「ふーん。連れないなぁ。
まぁいいや。
今は聞かないでおくよ。」



***



「はぁ?!男装?!」

「そう言うな。
ここは元々女人禁制の屯所。
伊藤さんが入隊するに当たって
お前には男装してもらわなきゃ
困るんだよ。」



次の朝
名無しさんは土方の部屋へと呼ばれていた。

伊藤 甲子太郎
その名を聞いて
彼女は露骨に嫌な顔をした。


そして
それよりも露骨に
嫌な顔をしたものがもう一名。


「土方さん
なんで名無しさんが今更男装なんか
しなきゃならないんです?
見ての通り男装しても
小姓にするには年だし
無理があると思いますけど。」

「こらっ年増言うな〜!」

「もし小姓にするなら
僕の小姓にしてくださいね。
それ以外は認めませんから。」


土方は盛大にため息をつき
仕方ねぇと承諾した。


「誰の小姓でも構わねぇよ。
ただし男装するのは絶対だ。」


むむうと口をすぼめる彼女は
ふと考えた。


この時代の男装といえば
袴である。


あ、袴もかわいいからいいかも〜
大正時代とかって袴だよね?
この年で袴はくことないし。
動きやすそうだし。
着崩れなさそうだし。。。


「名無しさんもしかして
今男装も悪くないな〜なんて
呑気なこと考えてない?」


相変わらず察しのいい沖田は
彼女を睨むが
とうの本人はお構いなしだ。


「いいよ土方さん。袴でも。
でもどうせならかわいい色とか
柄がいいな〜」

「どうせお前は小せぇから
俺らの着物は着れんだろう。
これで買ってこい。」


土方は彼女にしたて様の
金子を手渡した。


「じゃぁ名無しさんは僕と一緒に
呉服屋へ行こう?
あ、でも今の格好で男物の着物を
買いに行くのはへんだよね?」

「そうだなぁ。どれ、近所のガキの着物でも借りに行くか。」


こうして彼女は
男装を余儀無くされたのであった。





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