長編
□日向
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夕べ屯所に戻ると
彼女は沖田に袋の中身を
得意気に見せた。
「え、これってなに?」
「これが労咳の薬。食後に飲んでね。えっとこれと、これと。。。」
彼女の差し出す薬は
楕円形の粒や丸い粒で
沖田はお菓子みたいだねっと
微笑んだ。
「え、でも噛んだら。。。」
「うぇっ何これ苦いっっ」
「だから噛まないで飲み込んでって今から説明しようとおもってたんだけど。。。」
沖田はイタズラな笑みを浮かべて
彼女にずいっと躰を寄せた。
「狡いなぁ名無しさん。そんな意地悪どこで覚えたの??」
「。。。?!」
沖田の持つ威圧的な空気に
彼女は直感的にまずいと感じた。
「いやいやいや。別に意地悪してないってば。総司が早まって」
「黙って。ねぇ名無しさん、僕のこと好き?」
沖田の一言で彼女の躰が
びくんとした。
その反応を楽しむように
沖田はさらに名無しさんとの
距離を縮めながら問う。
「ねぇってば。僕の事、好きでしょ?だって君、そのまま帰ってれば全て元通りだったのになんでここに帰って来たの?それって僕の為なんじゃないかって。僕の為にこの薬を持って来てくれたのかなって。自惚れたいんだけど。。。だめかな?」
「だめって。。。そういう総司はどう思ってんのよ?」
「え?僕??決まってるでしょ。僕は名無しさんが好きだよ。」
思わず真っ白になるが
すんなりと沖田の言葉を
飲み込めずに可愛くない言葉が
口からこぼれた。
「総司の好きって軽いからな〜。いっぱい好きな人いそうだし。」
年甲斐もなくそっぽを向いて
沖田の方を見ずに答えると
手を彼女の頬に添えて
沖田は彼女を自分に向かせた。
「本気で言ってるの?僕でも傷つくんだけどそれ。」
「でも、私よりずっと若くて可愛い女の子なんて腐る程いるじゃない?」
「まぁね。いるかもね。いろいろと。」
顔色を変えていく彼女を沖田は
喉の奥でくくくっと笑うと
「うそ。僕は名無しさんがいい。名無しさんしかいらない。僕はこの薬で名無しさんの為に生きていきたい。。。ダメかな?」
左右に顔をふる彼女に
先ほど出された薬を目の前に差し出した。
「じゃあ、この薬名無しさんが口移しで飲ませて??」
沖田の囁く声に背くことが
出来る訳もなく
彼女は薬と水を自分の口に含むと
沖田の口に注ぎ込んだ。
喉が上下して飲み込む
そのまま唇を離そうとすると
沖田は腕を彼女の頭と腰にまわし
その口付けは深いものへと変わった。
そっと離された唇から
ため息とともに彼女は紡いだ。
「総司には叶わないや。」
沖田は得意気な笑みを浮かべた。
「これから毎日こうやって僕に薬を飲ませてね?」
。